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※個人の趣味によるブログです。基本的に本を読んでます。
No.
2025/05/23 (Fri) 01:02:52

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No.446
2013/04/21 (Sun) 00:09:46

先日、職場の40代ベテランの少し癖があるというキャラがたっている人が
「オレ、ラピュタ好きなんですよ」
と言っていて、不意打ちに思わず下唇を噛みしめてこらえました。
葵皇毅長官が「フランダースの犬」が好きだと告白したら、一瞬「え、この人が(こんな冷徹人間なのに実はいい人…?)」となる感じです。
優しいですしいい人ですしそこまで強面ではないですけど、もう楽しくて。さすがキャラがたっている人だ、という感じでした(笑)。
そこにウケていたのがわたしだけっていうのが、少し気になるところですが。
楽しければいいや。

今日は着込んでお出かけしたのに寒くて拷問でした。
テルマエロマエに間に合うよう計算して帰宅。漫画を読みたくなりました。

で、これから風呂に入って本を読んだ後余力があれば書きます。

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No.444
2013/04/18 (Thu) 22:43:30

――あなたの願い事は何ですか。
そう異国の魔術師に聞かれたとしたら、百合は「夫をもう少しまともにしてください」と迷いなき即答をする心づもりだ。黎深が何かしでかすたびに、どこ吹く風の元凶に怒鳴って、被害を最小限に抑えるために駆けずり回って、頭を下げてきた。それでなくとも仕事をしない黎深に代わって飛び回っているのだから、全てが済んだときにはもうぐったりだ。肉体的および精神的疲労で座り込んでいる百合に向かって「琵琶を弾け」だの「髪を切れ」だの「今日の兄上は…」だのが続くと、脳みそが沸騰しかける。
「何怒ってるんだ?」
と無神経に訊かれると誰のせいだと思ってるんだ、と物騒な感情が爆発しそうになる。普段はいるかいないかといった影がざわつくほどだ。
涼しい顔をしている黎深が、実は傷ついていることを知っているから百合は仕方がないなあ、と許してきた。無理やりケッコンなんてしてしまってからは、受け入れてきた。汁粉づけになろうと、文句は言うが食べてきた。
恋なんてしてる余裕なんてない関係は今でも続いているけれど、愛情が存在していることを否定できない。抵抗があるから積極的に認めたくはないけれど、絳攸も含めて家族なんだなあと思うと嬉しくて照れてしまう。
でも絳攸や悠舜を傷つけては自分までうろたえる黎深の不器用さに、ほとほと困り果てているのも事実だから、百合は願うのだ。
夫を変えてくださいではなくて、まともにしてください、と。せめて汁粉が週一回になるくらいのまともさを身に付けてほしい。そうしたら少しは大切な人のことが解ると思う。


***
スミマセンどうしても眠い。
もう少し続きます。

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No.442
2013/04/15 (Mon) 23:49:09

アンチョビオリーブが美味しい。
日曜日の買い物。
アンチョビオリーブ1缶、ブラックオリーブ1缶、グリーンオリーブ1缶、トマト缶1缶、ヨーグルト大2個、ヨーグルト小2個(ギリシャなんちゃらです)、オレンジジュース1本、お酒4缶、エリンギ1パックだったっけか…。
とにかく重かったです。徒歩でこれ。心臓破りの坂をこの荷物を持ってぜーぜー言いながら歩きました。筋肉痛になりました…。
なんだか「この人どんな食生活をしているの?」という買い物たちです。昨日はオリーブと野菜のトマトソースパスタ、本日は小松菜とオリーブの炒め物を摂取してます大丈夫。オリーブ美味しい。
で、今日は新宿寄って、いつものパンを購入して、靴を直して、人助けをして…。
あれ、このくだりなんか知ってると思った方、毎度こんな日記を読んでくださってありがとうございます。
そう、先週満員電車でパンを潰されて物騒な感情が芽生えたパターンとまるっきりいっしょ!
で、まあ本日は戦々恐々としながらも臨戦態勢で電車に乗りましたが、気負ってたのがあほらしくなる程の無事でした。肩透かしを喰らいましたがよかった。

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No.441
2013/04/14 (Sun) 23:26:58

上治六年七月十二日 藍楸瑛から紫劉輝への手紙

我が君、紫劉輝様
お久しぶりです。元気にしてらっしゃいますか。暖かくなってきたからといって、冷たい物ばかり食べていないでしょうね。布団を蹴っ飛ばしてお腹を出して寝てないでしょうね。風邪ひきますよ。気を付けてください。
相変わらずこちらの情報網はすごいとしか言いようがございません。例えば主上が昨日、池の蛙を眺めながら三回くしゃみした、絳攸が難しい顔で同じ回廊をグルグル回っていて(迷っていたに違いがありません)、ごくつぶし官吏たちが戦々恐々していたなんていうことまで瞬く間に届くのですから。驚きから呆れを通り越してぞっとします。
ところで凌晏樹様のフンドシは桃色で、葵長官のフンドシの色が青っていう風の便りまであるのですが、本当ですか? 彼らの情報網を有効利用すれば、晏樹様の尻尾も捕まえられる気がします。やはりぞっとします。
先ごろ正式な書翰をお届けしたとおり、こちらは軒並み安定しております。雨量も例年並みで、異常気象でも起きない限りそれなりの年貢の収穫があるでしょう。人口増加に伴い新田開発奨励の計画が持ち上がっています。商品作物の禁を緩和するかどうかでひと波乱がありそうです。
そうそう、一時期州都で多発していた強盗も私が指揮を執りました囮作戦が功を奏し捕まえることに成功し、夜の活気が戻ってきました。胸を撫で下ろしています。お忍びで町に降りて、経済の活性化を肌で感じています。嬉しい限りです。絳攸がなにやら酒を見繕っておけと言っていたので、美味しい酒をみつけました。きっと絳攸なりに寂しがっているのでしょうね。今度持っていきます。人目を盗んで昔みたいに三人で飲みましょう。
さて、この間絳攸から珍しく手紙が来た、私の愛が伝わったのかなと思ったら、これまたいつも以上に意味不明で。そっけないにも程がある、友達がいならぬ恋人がいのない奴だ、と次第に腹が立ってきました。しばらく怒りながら部屋の掃除をしていたら、もしかして何かの暗号なのか、と閃きまして。いろいろ試してみました。まず文字を一つずつずらしてみたり、並べ替えてみてもいみふめいなだけでした。そこであぶり出しかなと思って蝋燭の火にかざしてみたところ、焦げ臭くなっただけで慌ててひっこめました。そんな子供だましではなくて、特別な技術を使った物かと思いまして色々薬品をかけてみたのですが、それでも何も起こりませんでした。何かご存知でしたら教えていただけますか? 絳攸からの手紙を同封しておきます。勝手にこんなことしたと知ったら怒るかもしれませんから、どうぞ内密にしておいてください。お願いします。あ、ちゃんと返してくださいね。
それでは、また近況報告をいたします。
何かございましたら遠慮なくお申し付けください。あなたがお困りなら、この藍楸瑛、飛んでまいります。


上治六年七月八日 李絳攸から藍楸瑛への手紙

そんなことはない。
俺もだ。
ああ。そうだな。
美味しい酒を見つけておけ。


上治六年七月三日 李絳攸から紫劉輝への手紙

我が君
お元気そうで何よりです。縁起でもないことを仰るのはいただけませんが、助言には素直に従おうと思っていますので、ご心配なさらないでください。
こちらも相変わらず目が回るような忙しさです。三月前のひと騒動の後、後追いの依願退職者が出て人手不足で多少混乱しましたが、どうにか落ち着いてきたところです。余所者扱いは変わりませんが、あの一件以来、多少歩み寄ってくれる官吏も出てきて、仕事がやりやすくなりました。どこにでもああいう税金泥棒の勘違野郎はいるもので、幾らでも湧いて出てくるとなれば駆除にいとまがありません。手っ取り早く吏部にでも放り込んで精魂叩きなおしてやりたいところです。一人くらい吏部官を寄越していただけるよう、後ほど正式に依頼するかもしれません。
先だってご報告したとおり、水道設備拡張の工事が始まりました。州都では現在人口が急速に増加しています。都市部の水の需要を満たすだけではなく、郊外にも広げることで過密状態を改善する計画です。また湯屋も増え、衛生面も改善されるでしょう。
こちらの名物に魚の味噌漬けがあります。先日作り方を教わりましたので、慶賀の時にでも御馳走します。酒は楸瑛の野郎にでも用意させて一緒に飲みましょう。
また手紙を書きます。


上治六年六月二十九日 紫劉輝から李絳攸への手紙

絳攸、久しぶりなのだ。
元気にしてるか? 余は元気だぞ。本当は少し寂しいが、大丈夫だ。悠舜も十三姫も珠翠もいる。秀麗も先々で手紙を出してくれているしな。旺季には毎回すげなくされ、凌晏樹には馬鹿にされたように笑われているが、勝手に養子縁組したため拗ねていたリオウの機嫌もようやく直ったみたいで、この間桃を剥いてもらったのだ。悠舜はなんだか少し体調が悪そうで、余が休めと言っても言うことをきかなくて困る。邵可に相談したら漢方薬入りの父茶をそっと出してくれたのだ。あの時の悠舜の顔は今思い出しても笑えるぞ。でも悠舜の顔色がよくなったからよかったのだ。
おせっかいだと思われるかもしれないが、迷っていないか心配なのだ。遭難してそのまま…なんてなって一生会えなくなったら余は泣くぞ。想像しただけで涙が…。道に迷ったら人に聞くんだぞ。新しい土地だ。しばらくは誰も不審に思わないはずだ。
そういえば絳攸、そなた楸瑛とはどうなっているのだ? 少し前に楸瑛から手紙が届いたのだが、絳攸がつれないと嘆いておったぞ。なにやら絳攸はが冷たいと楸瑛が嘆いていたぞ。会いたいと思っているのは私だけなんでしょうか。好きだと思っているのは私だけなんでしょうか。愛してる。会いたい。いつも想ってる。
だとかなんとか。読んでて恥ずかしくなったぞ。白状すると余にこんな手紙を送られても困るのだが、まあ秀麗にウン年越しの片思いをしているから解る。イヤなくらいな。どんなやり取りがあったのかしらないが少し不憫だと思うぞ。
こんなことを書くとまた怒られそうだが、少し素直になってみたらどうだ? 手紙だと顔が見えないから、本当の気持ちが書きやすいんじゃないか? 普段伝えたくても伝えられないことを伝えてみたらどうだ?


*****
ぐだぐだになってきたので終わり。

考えていた段階では「いい!」と思っていたのですが、自分で書くと文章力ひ弱なせいか大したことがなかったー。
読み返してわかりにくいと思ったので、ちょっと書いておきます。

劉輝から絳攸への手紙の中にある楸瑛から劉輝への手紙の内容

会いたいと思っているのは私だけなんでしょうか。好きだと思っているのは私だけなんでしょうか。愛してる。会いたい。いつも想ってる。



絳攸から楸瑛への手紙


そんなことはない。
俺もだ。
ああ。そうだな。
美味しい酒を見つけておけ。


が間接的にリンクしてますって話です。劉輝の素直になれっていう助言に従って、こうなりましたってことですが。
解りにくいー(苦笑)。

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No.440
2013/04/14 (Sun) 10:03:32

***追記***
書いていた話の1/3が消えた…。
めげずに書く。泣きそうだ。
********



友人の一人にラテン系のクオーターがいて、クオーターだけど顔つきや体型やファッションセンスや考え方が日本人離れしていて、海外からやってきました日本語しゃべれませんって感じです。
その子の友達も海外の血が混じっている(日本人の)子が多くて、そういう仲良しコミュニティが形成されているようです。写真で見ると外国人だろうっていう日本人が本当に多いです。
で、ここからがその子達のあるあるエピソード。
よく警察に呼びとめられて「外国人登録証を見せろ」って言われるらしいです(もちろん日本人なので持ってません)。それで時間を喰って電車を逃すことがたびたびあってイライラするみたいです。

あの、本当に困っている方がいらっしゃる中申し訳ないのですが、ヴィジュアル的には刑事楸瑛、市民絳攸でのトラブルがぱっと思い浮かぶのですが刑事絳攸、市民楸瑛も好みですがこちらだとトラブルになりにくので…。
二人とも私服刑事で、楸瑛が知らずに職質目当てで声をかけて面喰うっていう展開もアリかと。

そろそろ黙ります。

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No.437
2013/04/08 (Mon) 23:14:34

今年初めての更新です(汗)。

パロに「KLEIN'S CODE」 1の2をアップしました。

実を言えば、これずううううっと前に書き終ってましたえへへ。その1の3も書き終っていて校正による調整を終えれば出せるといえば出せますが、精神的な問題でもう少し進行状況に余裕が持てるまで、というブレーキがけまたの名をキープ状態です。
あーなんかもう解らない、と思いながら書いてます(苦笑)。

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No.436
2013/04/08 (Mon) 22:12:01

手にするのは凶器。
そっと抱くのは恋心と狂気。
どうじに芽生えるのは憧憬や恋心と殺意。

また例のパンを買って(前回購入できなかったドライフルーツのパンとジャガイモパンもゲット)、靴を修理して、ちょっといいことをして(人助け)ルンルンで帰っていたら。ちょっとためらうくらいの満員電車で、でもまあえいや、と乗り込みました。
ケーキやパンを買うときは絶対に電車で潰れないように、自分に倍の負荷がかかろうと守り抜く覚悟でいつも乗り込みます。つまりこれは戦闘。この時だけはへたれなわたしも大事なお姫様を守る勇者になるのです(……)。
そう意気込んで乗り込んだら、続けざま――間を全くおかない状態でいきなり人が乗り込んできて、パンの袋をこう肘で(ギャー!)、二の腕で(ギャー!)、肩で(ギャー!)、むぎゅうううううと押し潰しました(魂飛んだ)。
心の中で「ぎゃあああああああ」と大絶叫。乗ったことないけどドドンパの落下中の絶叫にも劣らぬほどの魂の叫び(※ただし心の中)。ジャムパンがあああああああ!! 初めて買ったのにいいいいい!! と。

殺意って芽生えるものなんだな、と学びました。

磨いてもらった靴が踏まれようと、それは仕方ないとあきらめる。ああ、とは思っても。一瞬の敵意くらいは芽生えるかもしれないけどね。
本当にショックでしたよおおおお。美味しかったけど。
という本日の帰宅エピソードでした。もうあのおじさんへの物騒な感情は消えてますので、からっとしてますのでご心配なく。
明日のお昼は少し潰れたジャガイモパンと、潰れたけどジャムは飛び出ていないジャムパンと、無傷だったオリーブのパンを半分の予定です。ドライフルーツのパンはハード系なので、かなり力をくわえられたとは思いますが、たぶん大丈夫。

で、今から書きます。

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No.435
2013/04/07 (Sun) 23:28:50

お返事はひとつ下にあります。ありがとうございます!
この話の前の話はこちらです。

==========

迅が言った通り、少しすると本当に雲行きが怪しくなってきた。
あっという間に暗くなる。そして額に雨粒の冷たい刺激を受けた、と思ったら一気に土砂降りに変わった。
東京みたいに舗装された道が少ない。慣れない砂利道を迅と並んで走っていられたのも雨が降り始めるまでだった。
足を取られてつんのめることで転ばずに堪えた。
僕が躓いたことに気付かない迅の背中が遠ざかろうとしている。
「迅ー!」
走りながらあわてて大声を張り上げる。このザーザーという雑音塗れの中では聴こえているか心もとない。だが、迅はしばらくしてから振り返った。
チューニングに失敗したラジオの音声か遠い電話みたいな詰まった声で「大丈夫か」と聞こえて、大きく頷きながら直ぐに追いついた。都会っ子と呆れられたくない。
濡れた服が張り付いて動きづらいのと、冷たい雨によって体力が奪われる。人通りが少ない暗い道。これは結構恐怖だ。息を切らして示し合わせたように僕と迅はのろのろ走りを辞めて歩き出した。
ようやくアスファルトの道に出て、ほっと胸を撫で下ろす。
「お前、家はどこだ?」
町の名前と番地と近くの蕎麦屋の名前を答えると、「ふーん」と何か含んだ感想ともつかない関心の仕方をしたのが気になる。舗装がしてある区画。周りには大きい家が多いところに住んでいるからだろう。すこしちくりとした。
「それならこの道を真っ直ぐ行って床屋がみえたら次の道を右に曲がれ。突き当りを今度は左。空き地を通り過ぎて直ぐに右手に待ち合わせの神社がみえる。神社の方に進め。そうするととんでもなく大きい家が一軒ある」
「大きな家?」
「見ればわかるが、あまりジロジロ見ない方がいい」
「何故?」
「知るか。近寄るなって親から言われてるだよ。そこらその蕎麦屋がみえるから、あとは自力でたどり着けるだろう」
僕は引っかかりながらも頷いた。蕎麦屋が解れば大丈夫だという自信がある。
迅に礼と「風邪引くなよ」とお互い言い合って、別れた。
てくてくと歩くと床屋があって、ほっとした。迅の言葉を思い出しながら、右に左に曲がっていく。とんでもなく大きな家、と言っていたのはこれか。立派な門と塀。
ふと、迅が言葉を濁したことを思い出した。近寄るなと大人に言われている家。
普通の大きな家だ。ジロジロ見るなと言われたら見たくなってしまうのは仕方がない。何かあるのかと好奇心を刺激される。大人たちはそんなことも解らないのだ。
でも。閉ざされた門の他は何も見えない。
「なーんだ」
塀がどこまでも続く屋敷という以外は何の変哲もない。
興ざめ。
僕はザーザーの雨の中ぽつりとつぶやいて、小石をけるように右足を少し浮かせた。
さて、このままじゃ風邪をひきかねないぞ。門を通り過ぎた。
「何がなーんだなんだ、坊主」
背中から突然声が降ってきて、僕はとんでもなく驚いた。
ポタリ、と髪の毛から滴が垂れる音を聞いた。おかしいだろう。あんなにうるさかった雨音が静まり返ったようだ。目はしっかりと土砂降りを捕えているのに。
きょろきょろと周囲を見回すが何にもない。
「き、気のせい?」
「なわけあるか」
「う、うわあ!」
くっくっくという笑い声の後、僕の周りの雨が止んだ。
振り返ると曇り空のような銀鼠が一面に広がった。顔を上げればガラス玉のような双眸と目が合った。海老茶の傘をさした男が面白そうに見下ろしていた。男が着る着物と同じような髪の色をした、色の白い酷く作り物めいた男だ。変だ、と初めは思った。その後、男が酷く整った顔をしているからだと気付いた。
「坊主、酷いありさまだな。風邪ひくぞ」
「え、ええああ…」
銀鼠の向こうに開かれた門と点々とした御影石がみえる。この家の住人か、という僕の思考回路を読んだように「離れの居候だ」と男は言った。落ち着いた声なのに、雨音にもかき消されず耳に心地よく届く。
「とにかく入れ。しかしそっとな。見つかったらおれが怒られる」
男が唇に人差し指を当てて、反対の手で背中を押す。自然と足が門の中へと吸い込まれた。
推す力はさして強くないのに、何か見えない力に動かされるように、何かに操られるように、僕の足が――身体はまるで機械仕掛けの人形のように――それにしては滑らかに御影石をいくつも越えていった。

離れに住んでいるというのは本当らしい。
僕が通されたのは豪邸と呼ぶにふさわしい母屋とは別の、小さな御堂みたいな建物だった。
銀鼠の男は濡鼠の僕に「ちょっとそこで待ってろ」と言う言葉と石鹸の臭いがするふわふわのタオルを渡してい姿を消した。
言われた通り、部屋に入る。壁の一面は障子が引いてあり、その向こうは縁側。対面は出入り用のの障子。残りの二面の片方は、備え付けの棚に本がびっしりと詰まっていて、その前に置かれた文机と、畳の上にも本が積まれている。もう一方には場違いな鮮やかな着物がかけられている。
男が門前で唇に手を当てたことを思い出した。背中に受けた男の手の感触を思い出した。
妙に艶めかしくて、くらりとする。
独特のインクの臭いや古い本のカビ臭さの他に、形容しがたい脂臭さ――脂粉のようなにおいがあって、息が詰まりそうになった。
暗い部屋。他人の家だから勝手に電気をつけていいのか迷った。机の上のランプくらいならいいかな、お金持ちだろうし、なんて考える。
冷えてきたから少しでもマシか、と濡れたタオルにくるまっていると、「こんな暗い部屋で何してるんだ。泣いてるのか?」と頭上からからかいの混じった声がふってきた。
「泣いてなんかない。ちょっと物思いにふけっていただけだ」
「はっはっは。物思い、か。面白い坊主だな」
くしゃりと髪をかきまぜられた。明かりがともる。
「ほら、坊主これに着替えろ。風邪ひくぞ」
そう言って放り出されたのは、少し大きい白い木綿のシャツだった。身体が冷えてきたから素直に着替えようと濡れた自分の服に伸ばした手を一旦止めた。
「その坊主と言うのやめてくれませんか」
「坊主だから坊主と言って何が悪い」
「僕には藍楸瑛という名前があります」
男はニヤリと笑って「絳攸だ」と言った。きょとんとしているとますます笑みが深まった。
「名乗られたからにはこっちも名乗り返さないと礼儀知らずになるからな」
「おじさんの…名前、ですか?」
男は思いっきり肩を落とした。
「俺はおじさんじゃない! 俺はまだ高校生だぞ!」
僕は目いっぱい驚いた。僕と五六歳しか違わないのだ。
「ほら、無駄口叩かずにとっとと着替えろ。それとも一人じゃ着替えられない坊やなのか? だったら脱がせてやろうか?」
妖しげに目を細めれたから僕は慌てて濡れた服を脱ぎ捨てて、新しい物に腕を通した。見られてる、と思ったが男は――絳攸はいつの間にかどこかへ行っていた。少し心細いような変な感覚を首を振って振り払う。なんかおかしなことになっていると今更気づいた。
「おい、水滴をばらまくな」
楸瑛、と付け加えられた声が、耳朶を震わせた。
男は畳の上にお盆を置き、僕が畳が濡れないようにと板敷の縁側に置いたタオルを持ってきて跪く。
「ちゃんと拭け。髪の毛から風邪をひくぞ」
頭にふわりと被せられ、少し乱暴に髪の毛を揉まれる。顔が近い。整った顔に胸がどきりとする。僕の髪に向けられた真剣な目。ふと視線が合わさった瞬間、思わず息を止めた。顔が熱い。変だ。僕は変だ。頭に血が上る。
絳攸は気付かなかったのか再び僕の頭に目を向けた。力が抜けた。へたり込みそうになるのを耐えて、それでもちらちらと絳攸の顔をのぞき見た。
「ほらもういいぞ」
そう言って離れていくのはほっとするのと同時に何か寂しかった。
「これは?」
畳に置かれたお盆からは湯気が出た取って付きのグラスがあった。何か変な――漢方薬みたいな匂いがするから、思わず眉をしかめた。
「ホットコーラだ」
「え? 何それ?」
「だから温めたコーラだ。お前のものだ」
「ええー! こんな変なもの絶対嫌だ。飲みたくないよ!」
不機嫌顔でちっと舌打ちされた。この人怖い。
グラスを持ち上げて眼前に突き付けられる。
「つべこべ言わずに飲みやがれ!!」
物凄い勢いと迫力に、負けた。受け取ってちびちびと飲む。マズイ。うえーと舌を出していると睨まれたからせっせと少量ずつ飲み下していった。
美味しくなかったが身体がポカポカしてきた。
「温まったか?」
こくりと頷くと、僅かだが目じりが下がった気がした。優しい笑顔に思えて、心が温まり熱くなった。
「ありがとう、絳攸」
名前を呼ぶのは少し勇気が必要だったが今度はそれと解るほどに微笑深くなったから、思い切ったかいいがあった。
なのに。
「もう雨も弱まったな」
綺麗な横顔を向けた絳攸が呟いたその言葉が僕の心に刺さった。もう帰らなければならない。
「確認するが、お前、家までの道はわかるのか?」
迅にも同じことを訊かれた。迅はともかく僕は雨の中迷子になった子供だと思われていたのか。
「解ります」
「そうか。なら一人で帰れるな」
うなづく以外に道はなかった。

すまないが裏口から出ていってくれ、と言う絳攸の傘に入れてもらう。
勝手口の前で屈んだ絳攸に手を取られて、えび茶色の傘の柄を握り込まされた。
「え? あなたは?」
「俺はいい。もう小雨だし平気だ」
「ありがとうございます。直ぐに返しに来ます」
「いや、いい。その傘はお前にやる」
それでは口実がなくなってしまう。僕はいったんきゅっと結んだ唇を勇気を出して開いた。
「また、来てもいい?」
絳攸はこたえなかった。静かな苦笑とも取れない表情を浮かべて、見送ってくれた。
僕は後ろ髪をひかれるように、少し歩いては何度も振り返り、を繰り返す。一回目は絳攸はまだいた、二回目はもう背中を向けていて、三回目には銀鼠色の着物の裾しか見えなかった。
なぜこんなところに、という疑問ついに口にできなかった。

*****
何が書きたいのか解らなくなりました。出会いのシーンらへんが書きたかったのは確かのですが。
子供楸瑛と大人絳攸。
なんだか谷崎潤ちゃん(潤一郎)のナントカって話みたいになりました。谷崎潤ちゃんの小説は妖しさと色気があります。といってもあまり読んだことは無いけれど。

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No.434
2013/04/07 (Sun) 20:29:32

ようやく晴れた!
朝から強迫観念に駆られたようにここぞとばかりに洗濯に取り掛かりました。朝から続けざまに2回回しました洗濯機。
お布団もとばされそうになりながら短時間でも干せたのはよかったです。冬物を半分くらいしまって春夏服を少し出して…と生活臭あふれる日曜日でした。ぐったり。
で、明日はお仕事ですか…。木曜日に2年ぶりくらいの再会が待ってるので、それと週末を楽しみに励みますっ。
そういえば欧米では外に洗濯物は干さないんですよね。外に干す=乾燥機を持っていない=貧乏という思考回路だそうです。
イギリスに留学していた子は、皿洗いを手伝って、洗剤で洗った後水で流していたら「全然違う! 君は何もわかってない!」と注意されたそうです。洗い流さない文化…。うえー。
本日はちとSFのやつを書いてました。SFむずかしー。
子供たちのやつの続きはこれから書きますか。まだ8時ってことが信じられないくらいのまったり感です。

さて、続きはお返事です。
ありがとうございますございますっ! みっしりみっしり!
拍手もありがとうございますっ!!

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No.433
2013/04/07 (Sun) 00:35:08

金曜日の夜、「きょうき」を片手に携え帰宅しました。
狂気ではなくて凶器です。
狂気と恋心は胸にそっと秘めるものです(………)。
ええと、駅のスーパーでトマト缶を購入して、それを手で持って帰ったというのが真相。トマト缶を持ちながらまぎれもなく凶器になり得るな、と考えたってわけです。そんなことを考えながら帰るくらいにはミステリが好きです…。

本日の朝食はフレンチトースト、昼食はドリア、夕食はタンドリーチキンとパスタ。
初タンドリーチキンはフライパンがちょっと焦げ付きましたが合格点でした。よし、また作ろう。
トマト缶で初ガスパチョを作ってみよと思ったのですが、寒かったのでパスタ。
冷静スープ繋がり。高校生の時、ビシソワーズにはまって、毎日毎日作ってました。あんな(裏ごしするのが)面倒なものをよくもまあ。今年の夏には数年ぶりに作ってみようかな。

なんてかくと料理が出来そうな人に見えるかもしれませんが、苦手です。
テレビでさっささっさ作っている料理人のように素人はいかないものです。ほら、ピアノって練習したらすぐスラスラ弾けると思うでしょ? テニスって習い始めたらすぐ上手くなると思うでしょ? 違うんですよ違うんですよ。
料理も然り。さっささっさやらずにじっくりとやればいいとは解ってますが、どうせ自分が食べるものだからまあまあの味でいいや、と思うのが一番の原因です。
得意料理の一つがチャーハン。日本酒をちょっと加えると本格的な味わいになります。紹興酒なんて家にはないので日本酒。日本酒は家にあるのかって話ですが。

で、本日は凶器からコーヒー片手に今から書きます。

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