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No.873
2015/10/10 (Sat) 18:53:11

2つ目の日記。
パリ記をこの後いけるかは、写真の編集(主にリサイズ)にかかってます。

作者が学生ということもあり八咫烏シリーズの新作はおそらく来年(年に一度、夏に刊行のペース)。待ち遠しいので、デビュー作を読み返したらますます気になってきました。
文庫化に際して加筆があった気がしてお得感がありました(笑)。
「○○の○○」というのは売れるコピーとして有名ですが、3作4作目はこの例を踏襲しています。今後ももそうなっていくのですか。
余談ですが「○○の○○」で一番に思い浮かぶのは勿論京極堂シリーズですが(笑)。大好きなんだよ。

ということで、久々にちょっと書いてみます。
時系列的には「黄金の烏」の後です。


※ ※ ※

――失礼いたします。
雪哉は綺麗に頭を下げて、垂氷の郷長たる父の部屋を辞去した。政局で態々報告することでではないから、帰ってくるのを待っていた。夕食後の一人の時間を狙って訪ねて行ったという訳だ。
自室への回廊を歩きながら、数奇な運命に内心で唸ってみる。
困惑した父の顔は最もで、その表情にしかしこんな田舎貴族の自分たちが中央へのつながりができたことへの喜色があったことも見逃さない。
が、それ以上の狼狽は仕方ない。自分でも予想してなかったことだ、と雪哉は冷静に思う。垂氷のぼんくら次男である自分がまさか――。
「兄上」
「雪哉」
ぽてぽてと駆け寄ってくる弟と、その後にゆったりと続く絵にかいたような優等生然とした兄は、幼いゆえに父よりも困惑を滲ませた顔で雪哉を見つめてくる。
「お前頸草院へ行くというのは本当か。あれだけ嫌がってたのに」
「おやおや、盗み聞きとは兄上らしくない行動ですね」
くすくすと笑っても、挑発と誤魔化しには乗ってくれなかった。
髪の毛がぴょんぴょんと跳ねている雪哉とは違った顔立ちなのは当然で、貴族によくある異母兄弟という奴だ。でも世間が言うようなしがらみは家族間にはない。
「聞いていたなら確認するまでもないじゃないですか。本当ですよ。嫌でしたけど、そんな風に言ってられなくなったので。試験を受けて、入学して三年間しごかれてきます」
頸草院というのは東西南北の四大貴族と宗家に仕える護衛の養成機関だ。入学も何冠なら卒業も難しいが、無事三年間を過ごせればそのまま中央貴族に仕えるために中央に留まることになる。権謀術数が渦巻く中での護衛を育てるのだから、当然厳しい。噂を耳にしたことがなくても、口に出すのもはばかれるくらいのしごきが待っているとかなんとか。腕利きの庶民の他に長男と違って持て余されがちな行き場のない貴族の次男三男坊の墓場とも言われ、ぼんくら次男の雪哉でさえ何度か打診されたことがあるが耐えられるわけがないと思っていたから、絶対に頸草院には行きたくないとことあるごとに呟いていたのに。
「お、お前に耐えられるのか?」
「そうですよ。兄上はいつも何事も投げ出しがちではないですか」
「父上にはともかく、僕は兄弟にも信用されていないのか」
ぐっと黙る二人は知っている。難関な入学試験に合格できるのかと問わないのはそのためだ。できそこないの次男。弱くて学問も弟に追いつかれたといわれる雪哉は、周りに目がない時は、二人に喧嘩で負けたことは無く、家庭教師の課題に唸っていると、こともなさげに答えをつぶやいたりすることを。だめな次男を装っていて、それに気付かず雪哉を馬鹿にする親類縁者の見る目のなさを。
不安な顔でみる兄弟に雪哉はにやりと微笑みかけた。
「まあ、みていてください。今回は事態が事態なので、逃げ出したりなんかしないので」
事態に思い当たる事件を察して二人は緊張した。雪哉はこの世界――谷合を、自分たちを守るために決意したんだ。
「それより覚悟しておいてくださいね。僕は若宮に仕えます。そしたら周囲が黙っていないはずです」
若宮とは次の金烏――この世界の主のことだ。護衛になるには優秀な成績で頸草院を卒業しなければならない。現に今の護衛は頸草院を首席で卒業したものだ。
こんな田舎でひっそり才気を放っている雪哉だが、中央ではまぎれてしまうのではないかと言おうとした矢先、真剣な顔をした雪哉に阻まれた。
「というわけで僕はいなくなるので、こっちのことは二人に任せます。父上と母上をお守りしろ。そして」
――そして自分たちの身も守れ。


「では僕は寝ます。あーあ、父上を待っていたらこんな時間になってしまった」
ふぁ、と間抜け顔で大きな欠伸をしつつ、袖を振って二人の間を通り過ぎる。
兄弟は思い出す。
こんなぼんくらと言われるようになる前の雪哉を。弟は今よりもうんと小さかったからほとんど記憶にないが、北家主催の祭りに呼ばれたとき、飲み物を位の高い他家の世継ぎに零してしまったことを。騒ぎになりかけた時、すっとあらわれて背に庇って大人相手に堂々とその場を収めた小さな小さな雪哉を。そもそも昔は兄を差し置き雪哉こそが垂氷を継いだほうが、としきりに陰で言われていたことを。
少し震えた。あの雪哉が――今はもっと成長してあの頃の比ではない雪哉が戻ってくる。
ぼんくらの仮面を脱いだ雪哉に心変わりする者が現れないわけがない。異母兄弟など邪魔だと考える奴がいるだろう。雪哉の外戚が今、権力を握っている兄弟側の親族をどう思うか――。
兄はきゅっと右手を握り、あいた手で弟の身体に後ろから手を回した。
支えられてきたことを初めて知った瞬間だった。
もっと強くならねば。強くなって、垂氷の民や、父上や母上、それに兄弟――大切な人を自分たちが守ろう。
角を曲がった雪哉の裾の残像に、語りかけた。
こっちのことは心配ないから。だから存分にやってきておいで。



※ ※ ※
雪哉君が兄弟に語りかけるときの口調がわからない。

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