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No.357
2012/10/07 (Sun) 19:05:37

今日一日で3本くらいは書きたいな、と思ってます。
とりあえず一本目。そして今からテレビを観るので、果たしてどうなることやら(苦笑)。
観おわったらまた書きに来ます。

***追記***
2本目終了。
これから3本目。

こっそり追々記。
すみません、3本目は明日。
********

1・指
好きだ。
その言葉は楸瑛の意に反してポロリと零れ落ちた。
まだその時ではないと思っていたし、臆病になってずっと言えないかもしれない、と半ばあきらめていた。もし伝える日がきても、ひどく緊張しただろう、と楸瑛は想像していたのに。
市場の雑踏で絳攸と気づいたら逸れていて。人ごみを縫ってようやく見つけた絳攸は、こわばらせた表情できょろきょろとあたりを見回していたから。慌てて探した楸瑛はそんなそぶりも見ずに現れて、からかってやろうと思っていたのだ。
なのに。
楸瑛を一目見て、絳攸はわずかに顔をほころばせたから。ドキッとした。そしてああ好きだな、と思ったら言葉が口を吐いていたのだ。
何とも締りがない話。花街でスラスラと本音を隠した戯言を振りまいている楸瑛にしては、失態だった。
言ってしまった後で、焦った。絳攸の驚いた顔を見ながら、言い訳考えると同時に、このままでもいっかという気持ちになっていた。絳攸の眉がどんどん酔っていくのにも気づかずに、ごちゃごちゃ考えていた。
「何言ってんだ、この常春頭め」
本気にされなかったことにほっとして、そして少し切なくて。苦笑が漏れた。
「酷いな、本気なんだけど」
「随分軽い本気だな」
絳攸は心底呆れ果てた、といった感じでため息交じりに告げた。
「いいからここを出るぞ」
「そうだね、行こうか」
背を向けた後、ふと思いついて手を差し伸べたら、睨まれた。何だこの手は、と無言で告げている。
「また君とはぐれないとは限らないだろう?」
くすっと笑って顔を前に向ける。でも手はそのままで。怒鳴られるという予想に反して、トンと何かが置かれる感覚は、楸瑛にかなりの衝撃をもたらした。
思わず振り返れば、人差し指が乗っかっていて。
照れ隠しなのか絳攸はきゅっと口を結んで、よそ見をしている。
指一本分。
いまはそれだけの距離。それでも騒ぐ胸。
その妥協が可愛らしいというか、これくらいなら許されているのが嬉しくて、少なくとも嫌われていないことに安心する。受け入れてくれていることに。
指一本がいずれ二本になって、そして三本、四本と増えていって、手をつなぐ。
つい、そんな期待をしてしまう。楸瑛は大切なものを包み込むように、初めはそっと、そして離さないという意思を込めて、強く握りしめた。

2.コインと巡る季節
指で弾かれ、宙に放たれた五百円玉は、電球の光をキラキラと反射しながら、放物線を描き再び絳攸の手の中に納まった。
溜息を吐いて絳攸は机の上に硬化の側面を立てて、指で押さえる。右手の人差し指でそれを弾けば、景気よく回転したコインは、やがてカーペットの上に音もなくおちて、動きを止めた。
拾って銀行でもらったパンダの貯金箱へ入れる。でも入り口で弾かれた。
ギュッと胸が締め付けられる。襲われるフラッシュバック。
絳攸は貯金箱の蓋を開けた。ジャラジャラと出てくる銀色の硬貨は、扇形に広がり、そして途中で詰まった。
まだ初夏だった。
恋人ではない男と初めてキスをした。初めは無理やり合わさった唇に驚いたが、次第に熱に浮かされて夢中になって。
――迎えに行くから。
あの男はそう言った。
絳攸が地方の大学へ進学すると伝えた日だった。
自由登校。合えない日々。そして春になって引っ越し。

いつの間にか季節は一巡し、もう外は肌寒い。コインだってもう貯まった。
あの時のことを思い出すと、絳攸は焦燥感で胸をかきむしりたくなる。意味もなく独り言を呟いて。笑ったかと思えば、次の瞬間には落ち込んで。
全部。全部あの男のせいだ。
迎えに来ると言ったのに、連絡すら寄越さないで。
――嘘吐き。
絳攸は何度自分から連絡しようと思ったことか。その度に受話器を手にして、ボタンを押せないでいた。だって、友達だった。あれから何もない。だったらあんなことしなければよかったのだ。そうしたら壊れなかったのに。もう二度とあの時には――友達には戻れないし、あの時以上に遠くなったなんて。
――会いたい。
なんて思わずに済んだのに。
パンダの貯金箱を振る。詰まった五百円玉が再び溢れ出す。
――馬鹿野郎!
絳攸はコインを乱暴に一掴みし、それをポケットに詰め込んで、アパートを飛び出した。
冬の夜の凍てつくような寒さの中、白い息を上げて、絳攸は走った。徐々に賑やぐ通り。商店街を横目に、駅に着く。
停車していた電車が、轟音を響かせて通り過ぎる。時刻表を確かめなかったくせに、乗り遅れたことが苛立たしい。
切符を買おうと、かじかむ手でコインを入れようとしたが、焦って一度落とした。舌打ちをして、小銭を拾ったら――。
「――」
轟音の合間に聴こえた声。
絳攸はコインを投入口に入れかけたまま、凍りついた。
錆びついたブリキのおもちゃみたいに、ぎこちなく改札の側へ顔を向ける。
黒いコート。大きなボストンバッグ。青いマフラー。そして――。
瞠目した瞳が映したのは、優しく微笑んだ顔で。それは絳攸がよく見知った男のもので。
「しゅうえい?」
確かめるように呼べば、男はますます柔らかく笑った。
「絳攸。迎えに行くって言ったのに、遅くなって――」
言い切る前に、絳攸は男に抱きついた。
ふざけるなだとか、今更何のつもりだとか。言いたいことは全部吹っ飛んだ。
「コインだってすっかり一杯だぞ…!」
絳攸は自分でも訳が分からないと思いながら、漸くそれだけ言った。
回られた男の腕が嬉しいだなんて。
ごめん、と耳に寄せられた唇は冷たい。でも次の言葉は、どこまでも温かく絳攸の胸に響いた。

うわあああ、乙女チックになってしまった(照)。レ○ッカの「フレンズ」を聴きながら~。
楸瑛サイドでこういう話を書くとしたら、Caro Emeradの 「That Man」という曲を選びます。軽やかです。


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