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No.990
2018/03/06 (Tue) 22:58:00

数年前に一世を風靡した毛沢東を批判したノンフィクションの大作「ワイルド・スワン」を読了しました。いんやもう、すごかった。言葉にならないくらいの力に満ちた大作でした。今の中国に確かにつながっているという実感もあります。

 

さて、この「ワイルド・スワン」は著者の祖母、母、著者自身の三代記です。この三人が生きた時代というのがまさに激動の時代という言葉がぴったりな、日本による占領、戦後の国共内戦、共産党国家の成立、文化大革命とその終わりの中にあります。

近代中国について私全然知らなかった。こんな凄惨だったんだ。--というのが読了後の率直な感想でした。毛沢東を批判しているとは聞いていましたが、彼がどういう人物で何をしたかなんて恥ずかしながらろくに知りませんでした。中国建国の父で、なんか文化大革命っていうやつをやったんだよなあ、くらいの知識です。

訳者あとがきにあるように、この時代の中国の移り変わりを体系的に網羅した、まれな作品です。変遷が、そのつながりがわかるすごい本です。訳者の言う通りエリート階級に属していたからこそ、政治の流れを中心に近い位置で感じていられたのだと思います。そしてなにより、作者の母と作者自身の明晰な頭脳と語り手としての才能があったのでしょう。

日本に住んでいる我々からすると、戦後教育や様々な段階を経て、またニュースに触れることで、共産主義の中国より、民主主義の台湾の方が「いい国」だ、という認識を少なからず持っているのではないか、と思います。台湾の建国の父ともいえる蒋介石の方が、イデオロギーの共通点が多く、より近しい感じがし、より「人道的」だと思ってしまいます。実際蒋介石のこともほとんど知らないのに。しかし作中の国民党の描写はそれを裏切るものでした。特に苦戦していくにつけ。しかし国民党だけではなく共産党ももちろん、同じくらいーーそして文化大革命中にはそれ以上に残虐なことをしています。人が人をここまで痛めつけられるものか…と思うとぞっとしました。誰もが疑心暗鬼になり、神経質になり、おびえ、威嚇し、私情が理性にまさり、言葉尻をとらえ、罪をねつ造し、肉体的精神的暴力に満ち、破壊の限りを尽くすーーこれがこの本に書かれた文化大革命でした。「文化」とは果たしてーー? 革命とは「逆転」のことです。しかし「文化」「大革命」に至っては、毛沢東が自分の地位を確立するために、自分以外の人間を失脚させるため彼らの地位の「逆転」を図った約10年にも及ぶ「政策」でした。人々は完全にマインドコントロールされ、こんな時代になっても毛沢東を疑うことはしなかったようです。一つには知識は無駄なものだとして、教育機関をほとんど麻痺させてしまったことにあります。あとは刷り込みと恐怖による精神的な負荷にあると思います。まともな判断をできないような緊張の中、おびえながら生きていかなければならなかったのでしょう。恐怖による支配というのはだから毛沢東については当てはまらないのです。ほとんど神格化されていたのでそんなことしなくても、人々は毛沢東に忠誠を誓っているのですから。

様々な文化財、文化遺産がこの時代に壊されました。焚書により多くの知識が失われました。日本の廃仏毀釈ですら仏教美術に相当なダメージを与えたのですから、中国の歴史を考えればその比ではない規模の損害があったことでしょう。

作者とその家族は、特権を味わい、それゆえに迫害され、ぎりぎりのところを生きてきました。それでも生きてこられたのは、虐げられた理由の「特権」があったから。そしてそんな殺伐とした時代にあっても、作者の家族は温かさと勇敢さを忘れなかったからでしょう。

 

とにかくすっごい本でした!
初めの作者の言葉から、本編が始まる前にもかかわらずのめりこみました。
力がある。凄惨で目をそむけたくなるような出来事が後半は満ちていますが、それでも作者やその家族の温かさと勇敢さに満ちていました。作者同様に自分で道を開いた中国人もいたことでしょう。それが誇らしい。


ちなみに今は山崎豊子の「大地の子」を読んでいます。

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