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No.611
2013/11/12 (Tue) 00:28:02

楸瑛はめったに怒ったりしない。
感情を率直に表し生きていくことは、貴族社会や朝廷ではあまりにも危ないし、なにより奇抜を突き抜けたような弟の存在も大きな理由だ。龍蓮のおかげでというかおかげというかおかげというか――龍蓮のせいで想像し得ないあれこれをめくるめく体験してきたから、予測不可能な出来事には多少の耐性がある。
どんなときでもなるべく冷静に、冷静に。
だから今も一呼吸おいて自分の置かれた状況を十分把握して、理解しようとして、でも無理だったから再び一呼吸おいて、置かれた状況に若干絶望しそうになりながら、ある事情のせいで紗がかかってるが、座ってる楸瑛を対面で見下ろしている人物の顔を見つめて、全てを穏やかに取り繕って訊いた。笑顔が若干引き攣ってるのはこの際愛嬌だ。
「絳攸、これはどういうことかな?」
顔に被された虫取り網を箱入りの淑女よりも慎ましやかにつまんだ。
「お前、それがなんだか知らないのか?」
紗がかかった視界が、竹の棒の部分を掴んで全くもって冷静沈着に問いかけてくる絳攸を認めた。
「うん。知ってると思うけど私は蝶や蝉じゃないよ」
「お前が蝉より立派なものか。考えてからものを言え」
「え、私蝉以下なのかい?」
「蝉の方がはるかにカッコいいだろ。お前など足元にも及ばん!」
決して昆虫と張り合いたくもないが、劣っていると断言されると、それはそれで傷付く楸瑛であった。
「これはな、楸瑛。獲物を捕まえる道具で、昔黎深様に頂いたんだ」
あの人絡みかと思うとようやく絳攸のこの奇行に得心がいった。同時に項目的には龍蓮と同じ棚に並んでいる黎深が関与しているとなると、とんでもなく恐ろしい。黎深、その名だけで攻撃力があるが、いやここは冷静に。冷静に対応してこそ藍家の男。
「で、その心は?」
ニッと笑った絳攸が網越しに顔を寄せてきた。
「捕まえた、楸瑛。これでお前は俺のものだな」
「!」
反射的に絳攸の手首をつかんで抱き寄せてから気付いたのは、網が邪魔で口付が出来ないということだった。

=====
思わぬシュールな雰囲気に仕上がりました(笑)。そして季節感ゼロです(笑)。
突然降ってきたネタなのですが、多分円城塔さんの「道化師の蝶」(※数回前の芥川賞受賞作)をまた読みたいなあ、と思っていたからでしょうね。着想を捕まえられました。イエス!

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