※個人の趣味によるブログです。基本的に本を読んでます。
No.95
2011/12/25 (Sun) 23:39:59
ネタを思いついたので久々にライブノリで仕上げてみました。粗いけどまあブログネタなのでご勘弁。
現代双花です。
現代双花です。
茶色いドア。背には容赦なく吹きすさぶ冷たい風。ドアノブに伸びた手は空中で浮いたまま。
マンションのとある部屋に向き合って一時間半。怪しすぎるシチュエーション。でもじろじろと感じる視線に気にする余裕がないほど楸瑛は追い詰められていた。無表情はこの寒空のせいで凍りついてしまったかのようにもとれる。
はあ、と白い溜息。
目を閉じて悔やむような顔をしたから、時が止まっていたわけでは決してない。
きっと目に力を入れて、数センチドアノブに手が近付いたが結局触れることなく空中にとどまった。
何度目かの覚悟はあっけなく挫かれた。惨敗だ。
――藍楸瑛人生最大の失敗。
クリスマスプレゼントを用意できなかったなんて…!
何たる不覚。一生の恥。
それもこれも日が昇る前に出勤し、終電を逃すまで働きづめだった年末業務のせいで。もちろんそんな時間に開いている店は飲み屋くらいだ。のほほんとしてるくせにしっかりと部下に「経験だ」と仕事を押し付けまくるしたたかな部長の顔が憎らしい。
――ああそんなことより。
途方に暮れた楸瑛は木目がうっすらと残してあるこげ茶色のドアを見つめて顔をくしゃりとゆがめた。
絳攸はプレゼントの有無などさして気にしない。ただ、そんな人だからこそプレゼントに喜ぶ彼が見たいというのは結局楸瑛の我儘でしかない。
手ぶらのクリスマスなんて人生史上初で、その相手がよりにもよって絳攸なのがまたやり切れない。
涙が滲みそうになるのをごまかすために、首を左右に振った。
「で、お前はさっきからなにしてるんだ」
心臓が一瞬止まって驚いて顔を上げた。いつの間にかぴったりと閉まっていたドアには隙間ができ、そこから温かい風が流れ込む。三分の一だけ覗いた家主の顔は呆れかえっていた。
「め、メリークリスマス!絳攸!」
「……メリークリスマス楸瑛改め不審者」
余計なもの付きでも、諦めたような声音でも返してくれたのがちょっと嬉しい楸瑛だった。
「管理会社から電話があった。お宅の部屋の前に不審者がいる、ってな。住人の誰かが連絡を入れたんだろうが、覗いてみたら予想外――いや予想通りお前だった」
ちょっと数歩どけ、と言われ楸瑛は放心したままさがった。そのままドアが開かれる。同時に一瞬忘れたふがいなさを思い出し、楸瑛の心は再び沈んだ。
「そんなところにつったってられると邪魔だから早く入れ。ん?――っおい!お前どれだけ外にいたんだ!?」
楸瑛が冷え切ってる事を感じ取ったのか、絳攸の手が宙に浮いたままの手に触れてそのままぱっと離されたかと思ったら握りこまれ、力任せに引き寄せられる。一歩二歩と足が勝手に前に進み、ついに玄関へ。ドアがしまる音が背後でする。楸瑛はそのまま絳攸を包み込むように抱きしめた。
「動けないぞおい」
ため息交じりの声。
「風邪をひきたくなかったらストーブの前で温かいお茶が入るまで大人しくしてろ。――味にはくれぐれも期待はするなよ」
そうしてどうにか楸瑛を背中にくっつける体勢を維持した絳攸は、ずるずると冷たく大きな塊をくっつけたまま進んだ。
それもリビングでべりっとはがされ、ストーブを目の前におかれ、毛布を頭からかぶせられる。視界が開ける頃には絳攸はキッチンにいた。温風を浴びると鳥肌が立つ。冷え切った体を実感して、震えながら素直に手足をストーブに向かって伸ばした。
「ほれ」
差し出されたカップを受け取ると、冷すぎる手が痛い。口を付けようとした楸瑛は思わず抗議の声を上げた。
「これココアだ」
「ふてくされたガキの様な面をしたお前にはこれで十分だ」
馬鹿にされた気分だが言い返せない楸瑛はずずずとココアをすすった。
――甘い。当たり前だ。
「で」
「でって?」
「何があった?」
何も、と言おうとしてそれじゃあ絳攸に言われた通りガキのすることだと思って楸瑛は渋々ながら口を開く。
「君のクリスマスプレゼントを用意できなかった。ごめん」
「そうか。で」
「でって?」
「他には何があったんだ?」
「――何もないけど」
「じゃあ何だお前は俺にプレゼントを買えなかったからいじけてるのか」
こうして改めて言われると本当に子供のすることだ。
「そんなの」
そう。絳攸にとってはそんなの、の一言で片付いてしまうけど。ずっと前からこの日を、楸瑛の喜ぶ顔を待ちわびていた楸瑛は絳攸と会うのをためらう程、いい訳をぐるぐると考えてしまう程、大きなことなのだ。
――プレゼントを選ぶのに時間を使うよりも
「お前と長く一緒に入れた方が良いに決まってるだろ」
思わず熱いカップをテーブルに置く。
タイミングを見計らったようにぽん、と飛んできた何かは赤いラッピングの袋で――。中には普通より大きなサイズのマグカップ。クリスマスプレゼントの定番だ。
割れたらどうするつもりだったんだ、と思いつつ一緒に出てきたカードの中身はココアよりも甘くとけそうな。
――より多くの時間を共に
メリークリスマス 楸瑛 ――
マンションのとある部屋に向き合って一時間半。怪しすぎるシチュエーション。でもじろじろと感じる視線に気にする余裕がないほど楸瑛は追い詰められていた。無表情はこの寒空のせいで凍りついてしまったかのようにもとれる。
はあ、と白い溜息。
目を閉じて悔やむような顔をしたから、時が止まっていたわけでは決してない。
きっと目に力を入れて、数センチドアノブに手が近付いたが結局触れることなく空中にとどまった。
何度目かの覚悟はあっけなく挫かれた。惨敗だ。
――藍楸瑛人生最大の失敗。
クリスマスプレゼントを用意できなかったなんて…!
何たる不覚。一生の恥。
それもこれも日が昇る前に出勤し、終電を逃すまで働きづめだった年末業務のせいで。もちろんそんな時間に開いている店は飲み屋くらいだ。のほほんとしてるくせにしっかりと部下に「経験だ」と仕事を押し付けまくるしたたかな部長の顔が憎らしい。
――ああそんなことより。
途方に暮れた楸瑛は木目がうっすらと残してあるこげ茶色のドアを見つめて顔をくしゃりとゆがめた。
絳攸はプレゼントの有無などさして気にしない。ただ、そんな人だからこそプレゼントに喜ぶ彼が見たいというのは結局楸瑛の我儘でしかない。
手ぶらのクリスマスなんて人生史上初で、その相手がよりにもよって絳攸なのがまたやり切れない。
涙が滲みそうになるのをごまかすために、首を左右に振った。
「で、お前はさっきからなにしてるんだ」
心臓が一瞬止まって驚いて顔を上げた。いつの間にかぴったりと閉まっていたドアには隙間ができ、そこから温かい風が流れ込む。三分の一だけ覗いた家主の顔は呆れかえっていた。
「め、メリークリスマス!絳攸!」
「……メリークリスマス楸瑛改め不審者」
余計なもの付きでも、諦めたような声音でも返してくれたのがちょっと嬉しい楸瑛だった。
「管理会社から電話があった。お宅の部屋の前に不審者がいる、ってな。住人の誰かが連絡を入れたんだろうが、覗いてみたら予想外――いや予想通りお前だった」
ちょっと数歩どけ、と言われ楸瑛は放心したままさがった。そのままドアが開かれる。同時に一瞬忘れたふがいなさを思い出し、楸瑛の心は再び沈んだ。
「そんなところにつったってられると邪魔だから早く入れ。ん?――っおい!お前どれだけ外にいたんだ!?」
楸瑛が冷え切ってる事を感じ取ったのか、絳攸の手が宙に浮いたままの手に触れてそのままぱっと離されたかと思ったら握りこまれ、力任せに引き寄せられる。一歩二歩と足が勝手に前に進み、ついに玄関へ。ドアがしまる音が背後でする。楸瑛はそのまま絳攸を包み込むように抱きしめた。
「動けないぞおい」
ため息交じりの声。
「風邪をひきたくなかったらストーブの前で温かいお茶が入るまで大人しくしてろ。――味にはくれぐれも期待はするなよ」
そうしてどうにか楸瑛を背中にくっつける体勢を維持した絳攸は、ずるずると冷たく大きな塊をくっつけたまま進んだ。
それもリビングでべりっとはがされ、ストーブを目の前におかれ、毛布を頭からかぶせられる。視界が開ける頃には絳攸はキッチンにいた。温風を浴びると鳥肌が立つ。冷え切った体を実感して、震えながら素直に手足をストーブに向かって伸ばした。
「ほれ」
差し出されたカップを受け取ると、冷すぎる手が痛い。口を付けようとした楸瑛は思わず抗議の声を上げた。
「これココアだ」
「ふてくされたガキの様な面をしたお前にはこれで十分だ」
馬鹿にされた気分だが言い返せない楸瑛はずずずとココアをすすった。
――甘い。当たり前だ。
「で」
「でって?」
「何があった?」
何も、と言おうとしてそれじゃあ絳攸に言われた通りガキのすることだと思って楸瑛は渋々ながら口を開く。
「君のクリスマスプレゼントを用意できなかった。ごめん」
「そうか。で」
「でって?」
「他には何があったんだ?」
「――何もないけど」
「じゃあ何だお前は俺にプレゼントを買えなかったからいじけてるのか」
こうして改めて言われると本当に子供のすることだ。
「そんなの」
そう。絳攸にとってはそんなの、の一言で片付いてしまうけど。ずっと前からこの日を、楸瑛の喜ぶ顔を待ちわびていた楸瑛は絳攸と会うのをためらう程、いい訳をぐるぐると考えてしまう程、大きなことなのだ。
――プレゼントを選ぶのに時間を使うよりも
「お前と長く一緒に入れた方が良いに決まってるだろ」
思わず熱いカップをテーブルに置く。
タイミングを見計らったようにぽん、と飛んできた何かは赤いラッピングの袋で――。中には普通より大きなサイズのマグカップ。クリスマスプレゼントの定番だ。
割れたらどうするつもりだったんだ、と思いつつ一緒に出てきたカードの中身はココアよりも甘くとけそうな。
――より多くの時間を共に
メリークリスマス 楸瑛 ――
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