※個人の趣味によるブログです。基本的に本を読んでます。
No.558
2013/09/08 (Sun) 19:54:28
オリンピックの開催地が東京に決まりましたね。
嬉しいです。7年後…。はたして自分が何歳になってるって考えたらだめです……。この時だけ足し算が出来ない大人になります。
それにしても職場への通勤やらなんやらで、何チャラ体育館だとか何チャラ競技場だとか、会場になるところをいくつか通るので、時間帯とか時期とかは考えていただきたいです。朝はまあ問題ないでしょうが、夜。夢がない社会人の発言(苦笑)。
先週から書いていたものが、上手くいかないので一旦停止します。きりがいいところまで折りたたんでおきます。
絳攸と楸瑛の進士時代。
※ ※ ※
靴磨きを終えて、絳攸は漸く使わせてもらっている府庫へ戻ってきた。凝り固まっている肩を叩いて、首を回す。ゴキゴキと軽快とは遠い音が鳴った。
靴磨きを終えて、絳攸は漸く使わせてもらっている府庫へ戻ってきた。凝り固まっている肩を叩いて、首を回す。ゴキゴキと軽快とは遠い音が鳴った。
ここ数日、まともに寝ていないから、すっかり身体のあちこちが固くなってしまった。
片手に持った臨時の商売道具を邪魔にならない場所に片づけ、書翰が積み上がっている一角へやってくる。
十六歳の絳攸の背丈よりも高くそびえる見上げんばかりの紙の山は、ぐらぐらと揺れている。天に届く塔を造ろうとして崩れ落ちた遠い国の話を思い出した。しかし異国の話が示す人間の驕りだとかは全く関係なく、これは嫌がらせと怠慢の高さだ。
三十路、あるいは四十路で中央官吏としての第一歩を歩み出す人材が少なくない中、十六歳の絳攸が先の国試で状元及第してしまったのだ。貴族たちは中央政府に礎を築くため、同門子弟に金をつぎ込み、華々しき「国試状元及第」という高級官吏への御免状を足掛かりにしようとしていたのを、こんな子供に邪魔されたと怒っているらしい。とはいっても絳攸の順位分を詰めたとしても、彼らの同門が状元になるわけではなく、下から数えたほうが早い順位なのだから、まさしく逆恨みもいいとこだ。
出来すぎる子どもというのは生意気で可愛くなくて忌々しくうざったい。子どもの分際で大人の計画を破綻させるなど許せない、というものらしい。
通常なら吏部試を受けて配属が決まっている時期なのに、朝廷預かりとなって毎朝靴磨きに励むのも、そこらへんが絡んでいる。働き先を自らの手でどうにかしなくてはならない、ということだ。
靴磨きはそれなりに役立っているからともかく、嫌がらせには辟易していた。何の感慨も抱かせてくれないどころか、性質の悪いことに権力を持った大人の見栄のせいで、効率性を甚だしく阻害されているのが気に喰わない。
空いている場所が他にあるのに、わざわざ積み上げることに熱意を注ぎ、悪意という名の意義を見出している連中に恨まれるなど、馬鹿馬鹿しいにも程がある。天井に届きそうな程なのだから、手を加える方のも大変なはずだ。そんなところに労力を使ってどうする。いや、先人がいる一門だからこそ、子弟も子弟で上位及第が出来ないのだと思いなおした。
笑止千万尚且つ迷惑千万極まりない。
もっともそれは絳攸一人のせいではないのだが。
とにかく、このプルプルと寒天みたいに震えて今にも崩れ落ちんばかりの、白い<紙の>巨塔――とはいっても、ウン年間放っておかれた日焼けして黄ばんでいる紙やら、乾ききる前に重ねられて黒ずんだものが大いに混じっているから、実際はそんなに白くないさしずめ汚れた白い巨塔といったところだ――に雪崩注意とでも書いて貼っておくか。いや、近寄るな、危険のほうがいいか。
絳攸は本気で悩んだ。
巨塔の横には分類済みの小山山脈が連なっているのだが、そこにも書翰に新たな山が加わっており、溜息を吐きながら無秩序に状態の束をいくつか机に持ってきた。
再びその仕訳を始める前に思い立って、進士服の懐からくしゃくしゃに丸めたものを出し、手で伸ばし広げる。絳攸は裏紙に黒々と走り書きされたものを脳裏に焼き付けて、瞑目しながら右上を見るみたいに意識を集中させて、米神を軽く叩いた。
ふわりと風が香りとある男を連想させる気配を運んできた。
「何してるの?」
ぱちっと眼を開ければ、想像した顔が想像しない格好で上から覗き込んでいて、非常に気色悪い。包み込むような体勢とさかさまの顔がにこやかなのが本気で気色悪い。
「酷いなあ」
声に出てしまっていたらしい。全く酷いと思っていないのが解る調子で男は言った。
――逆恨みの原因その二。藍楸瑛、十八歳。絳攸に続く成績で進士服を纏うことを許された同じく子どもだ。
「で、何してるの、絳攸」
「なにも。書簡の分類するのにいちいちお前に断わりを入れるいわれはない」
そっけない返答に何も感じていないらしい楸瑛は、絳攸の手に握られたくしゃくしゃの紙を一瞥して「それ何の落書き? あ、わかった。ミミズ? 最近少しずつ暖かくなってきたからね」とのたまった。
――落書きじゃない。書付だ。
額に青筋が一本浮いたが、精神力で抑え込んだ。
靴磨きをしているといろいろな噂話を耳にする。それを走り書きしておくのが今の日課だ。大抵は噂の域を出ない戯言や、心底どうでもいい情報がほとんどだ。
誰がどこの部署に属して、どんな仕事をしている、といったこれから先も役立ちそうな書付が、少し。
貴族出身の毛官吏の家でいついつに宴会があるとか、袁官吏の娘と習官吏の長男が結婚するなどといった多少は使い勝手があるかもしれない政治的な噂はまだしも、工部尚書が実はこっそり下手な詩を書きためているとか、戸部尚書が限定版の桃色草子を引き出しの奥にしまっているとか、礼部尚書が鬘だとか、西の井戸の梅林が発展場だとか。姮娥楼に胸の大きな遊女が入っただとか、榜眼及第した男が後宮の女官に手を出しているだとか。
虚しくなりながらも、筆を走らせるの大半だった。
それでもいつか何かの役に立つかもしれない、と書きためている。
証拠を残さないために、頭に叩き込んだら後は火にくべる。
楸瑛に敢えて取り合わないでいると、絳攸が恥ずかしがっていると勘違いしたらしい。
「あっはっは。状元様も絵心はあまりないと見える。あ、気を悪くしないで。馬鹿にしてるわけじゃないんだ。実は私も絵が苦手でね。歳も近いしなんだか親近感を感じるね」
――何が。何が「ね」だ! 親近感なんてこれっぽちも湧くものかッ!!
「そ、その無駄に回る口を閉じろ! そもそもこれは絵じゃない!」
ダン、と机を思いっきり叩けばヒラヒラと舞う白い物体。その名は紙。手に取って眺めれば、備品管理状態が記されている書翰だ。ここ数年で、備品購入予算が右肩上がりだ――じゃなくて。
仰いだ絳攸と楸瑛の顔に影が落ちる。白い<紙の>巨塔があっちへぐーらぐら、こっちへぐーらぐらと揺れて――。
「へ? ちょ、ちょっと待った!」
「う、うわあああああああああああ!」
そうして塔は二人の上にあっけなく崩れた。
断末魔の如き若者二名分の悲鳴は、真昼間の朝廷の重厚な造りに吸収され、府庫の外には慎ましく響いた。
「でもまあ、一番上に乗っかってた書翰なんて、どうやって取っていいかわからなかったし、これで分類しやすくなったってことだよね…」
頭に積もった紙を散らしつつ、乾いた笑いをもらした楸瑛に、同じく「ああ」と絳攸も虚しく首肯を返すしかない。
こうして夜更かしの記録をまた一日と伸ばしていくのだった。
※ ※ ※
ここまで。
投げたので、もう書かないかもしれない(苦笑)。
片手に持った臨時の商売道具を邪魔にならない場所に片づけ、書翰が積み上がっている一角へやってくる。
十六歳の絳攸の背丈よりも高くそびえる見上げんばかりの紙の山は、ぐらぐらと揺れている。天に届く塔を造ろうとして崩れ落ちた遠い国の話を思い出した。しかし異国の話が示す人間の驕りだとかは全く関係なく、これは嫌がらせと怠慢の高さだ。
三十路、あるいは四十路で中央官吏としての第一歩を歩み出す人材が少なくない中、十六歳の絳攸が先の国試で状元及第してしまったのだ。貴族たちは中央政府に礎を築くため、同門子弟に金をつぎ込み、華々しき「国試状元及第」という高級官吏への御免状を足掛かりにしようとしていたのを、こんな子供に邪魔されたと怒っているらしい。とはいっても絳攸の順位分を詰めたとしても、彼らの同門が状元になるわけではなく、下から数えたほうが早い順位なのだから、まさしく逆恨みもいいとこだ。
出来すぎる子どもというのは生意気で可愛くなくて忌々しくうざったい。子どもの分際で大人の計画を破綻させるなど許せない、というものらしい。
通常なら吏部試を受けて配属が決まっている時期なのに、朝廷預かりとなって毎朝靴磨きに励むのも、そこらへんが絡んでいる。働き先を自らの手でどうにかしなくてはならない、ということだ。
靴磨きはそれなりに役立っているからともかく、嫌がらせには辟易していた。何の感慨も抱かせてくれないどころか、性質の悪いことに権力を持った大人の見栄のせいで、効率性を甚だしく阻害されているのが気に喰わない。
空いている場所が他にあるのに、わざわざ積み上げることに熱意を注ぎ、悪意という名の意義を見出している連中に恨まれるなど、馬鹿馬鹿しいにも程がある。天井に届きそうな程なのだから、手を加える方のも大変なはずだ。そんなところに労力を使ってどうする。いや、先人がいる一門だからこそ、子弟も子弟で上位及第が出来ないのだと思いなおした。
笑止千万尚且つ迷惑千万極まりない。
もっともそれは絳攸一人のせいではないのだが。
とにかく、このプルプルと寒天みたいに震えて今にも崩れ落ちんばかりの、白い<紙の>巨塔――とはいっても、ウン年間放っておかれた日焼けして黄ばんでいる紙やら、乾ききる前に重ねられて黒ずんだものが大いに混じっているから、実際はそんなに白くないさしずめ汚れた白い巨塔といったところだ――に雪崩注意とでも書いて貼っておくか。いや、近寄るな、危険のほうがいいか。
絳攸は本気で悩んだ。
巨塔の横には分類済みの小山山脈が連なっているのだが、そこにも書翰に新たな山が加わっており、溜息を吐きながら無秩序に状態の束をいくつか机に持ってきた。
再びその仕訳を始める前に思い立って、進士服の懐からくしゃくしゃに丸めたものを出し、手で伸ばし広げる。絳攸は裏紙に黒々と走り書きされたものを脳裏に焼き付けて、瞑目しながら右上を見るみたいに意識を集中させて、米神を軽く叩いた。
ふわりと風が香りとある男を連想させる気配を運んできた。
「何してるの?」
ぱちっと眼を開ければ、想像した顔が想像しない格好で上から覗き込んでいて、非常に気色悪い。包み込むような体勢とさかさまの顔がにこやかなのが本気で気色悪い。
「酷いなあ」
声に出てしまっていたらしい。全く酷いと思っていないのが解る調子で男は言った。
――逆恨みの原因その二。藍楸瑛、十八歳。絳攸に続く成績で進士服を纏うことを許された同じく子どもだ。
「で、何してるの、絳攸」
「なにも。書簡の分類するのにいちいちお前に断わりを入れるいわれはない」
そっけない返答に何も感じていないらしい楸瑛は、絳攸の手に握られたくしゃくしゃの紙を一瞥して「それ何の落書き? あ、わかった。ミミズ? 最近少しずつ暖かくなってきたからね」とのたまった。
――落書きじゃない。書付だ。
額に青筋が一本浮いたが、精神力で抑え込んだ。
靴磨きをしているといろいろな噂話を耳にする。それを走り書きしておくのが今の日課だ。大抵は噂の域を出ない戯言や、心底どうでもいい情報がほとんどだ。
誰がどこの部署に属して、どんな仕事をしている、といったこれから先も役立ちそうな書付が、少し。
貴族出身の毛官吏の家でいついつに宴会があるとか、袁官吏の娘と習官吏の長男が結婚するなどといった多少は使い勝手があるかもしれない政治的な噂はまだしも、工部尚書が実はこっそり下手な詩を書きためているとか、戸部尚書が限定版の桃色草子を引き出しの奥にしまっているとか、礼部尚書が鬘だとか、西の井戸の梅林が発展場だとか。姮娥楼に胸の大きな遊女が入っただとか、榜眼及第した男が後宮の女官に手を出しているだとか。
虚しくなりながらも、筆を走らせるの大半だった。
それでもいつか何かの役に立つかもしれない、と書きためている。
証拠を残さないために、頭に叩き込んだら後は火にくべる。
楸瑛に敢えて取り合わないでいると、絳攸が恥ずかしがっていると勘違いしたらしい。
「あっはっは。状元様も絵心はあまりないと見える。あ、気を悪くしないで。馬鹿にしてるわけじゃないんだ。実は私も絵が苦手でね。歳も近いしなんだか親近感を感じるね」
――何が。何が「ね」だ! 親近感なんてこれっぽちも湧くものかッ!!
「そ、その無駄に回る口を閉じろ! そもそもこれは絵じゃない!」
ダン、と机を思いっきり叩けばヒラヒラと舞う白い物体。その名は紙。手に取って眺めれば、備品管理状態が記されている書翰だ。ここ数年で、備品購入予算が右肩上がりだ――じゃなくて。
仰いだ絳攸と楸瑛の顔に影が落ちる。白い<紙の>巨塔があっちへぐーらぐら、こっちへぐーらぐらと揺れて――。
「へ? ちょ、ちょっと待った!」
「う、うわあああああああああああ!」
そうして塔は二人の上にあっけなく崩れた。
断末魔の如き若者二名分の悲鳴は、真昼間の朝廷の重厚な造りに吸収され、府庫の外には慎ましく響いた。
「でもまあ、一番上に乗っかってた書翰なんて、どうやって取っていいかわからなかったし、これで分類しやすくなったってことだよね…」
頭に積もった紙を散らしつつ、乾いた笑いをもらした楸瑛に、同じく「ああ」と絳攸も虚しく首肯を返すしかない。
こうして夜更かしの記録をまた一日と伸ばしていくのだった。
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投げたので、もう書かないかもしれない(苦笑)。
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