※個人の趣味によるブログです。基本的に本を読んでます。
No.734
2014/06/11 (Wed) 23:31:30
やばいやばいと思って眼を少し見開いて、瞬きを控えて、意識をそらそうとして失敗した。
やばいやばい。我慢しろ。ダメだ。
幾ら言い聞かせても、涙は呆気なく楸瑛の眼からボロッと落ちた。
ぎょっとした顔の絳攸は、気まずそうに眼をそらし頭を掻く。溜息にカチンときたが同時にめんどくさいとでも思われてるのかなという想像に傷付いて、楸瑛の意思とは反対にボロボロと涙が落ちていく。とまれと命じたって止まらない。ボロボロ、ボロボロ。嘘みたいな粒となって、落下する。
「泣くなよな」
「…君があんなことを言うのがいけないんだ。全部」
「お前が弄んだ女たちも似たようなことを思ったんだろうな」
チクリと胸に針が突き刺さった。
絳攸を好きになった時に、随分難しい相手を好きになったものだと何度も苦笑しつつ、浮足立った心を押さえられなかった。その時とは違う。
楸瑛は何度も何度も絳攸に泣かされてきた。気持の温度差が二人にはある。楸瑛の方が絳攸のことを二倍も三倍も、十倍も十一倍も、きっともっともっと好きで、虚しくなる。
きっかけはなんだか忘れてしまったが、些細な会話の流れから絳攸が放った言葉が楸瑛を傷つけた。
――お前はもっと付き合ってた女たちに真剣に向き合うべきだ。俺のことを好きだとかなんとか言う前に。彼女たちと真剣に向き合って、誰かと付き合うべきだったんだ。
――何で。何でそんなことを言うんだい。私の気持ちを知ってるくせに。彼女たちのことはすまないと思ってるけど、そう思えるのも君に出会ったからなのに。
そして目頭が熱くなった。数回告白してその度に振られた末にようやく首を縦に振ってくれたのに、何で何度もみじめな思いをしなくてはならないのかと、楸瑛は泣きながら思った。
「何で何度も君に泣かされなきゃいけないんだ」
「毎回お前が勝手に泣いてるんだろ。人聞きが悪いこと言うな」
「事実君が泣かせてるんだよ! 付き合ってるのにこれじゃあまるで弄ばれてる気分だよ」
「遊びで一緒に寝るか! それに陸では俺がお前を泣かせて何が悪い!」
楸瑛の涙が止まった。
ベッドの上は海に似ている。夜の海だ。
シーツの皺の上で、白い身体が波打つ。髪が揺れて、脚が躍り、宙を彷徨っていた腕がしがみつくように背中に回される。快感に溺れてどこか深いところに沈んでいく。
絳攸を抱くとき楸瑛はいつもそんな感覚を抱いていた。
多分絳攸も、だ。同じように思っているのだ。
陸――ベッド以外の場所では絳攸が楸瑛を泣かす。なら海――ベッドの上では楸瑛が絳攸を泣かせていいのだ。それはまぎれもなく抱いていいという許可。極めつけが「遊びで一緒に寝るか」の言葉だ。
ああ、たったそれだけの言葉でスッと身体が軽くなった。楸瑛の方が好きだとしても、ずるいと思っても、それでもいい。絳攸に好きだから触れてもいいと言われてるのだから。
それに、楸瑛はある記憶を思い出していた。
初めて絳攸に泣かされた時、情けないことに妹が隣にいた。兄の威厳が地に落ちた瞬間だった――というのはともかく、泣き出した楸瑛に、絳攸は「あー」とか「そのー」とか「ええと」とか何かもごもご言って、肩をぽんと叩いて回れ右して逃げるように帰っていた。かと思ったら、急いで戻ってきて、楸瑛の腕をとって何かを握らせた。
何アレ、と吐き捨てた妹ではないが楸瑛も余りの勢いに泣くのも忘れぽかんとした。掌にはエッチな業者の文句がプリントされた、どぎついピンクと紫のポケットティッシュがあった。泣き止んでしまったから使いようがない。年頃の兄妹にこのティッシュはちょっと気まずいかな、と思ったところで楸瑛の妹が口を開いた。
「あれは好きな相手に泣かれても何もできないタイプとみたわ。兄様もよりにもよって難儀なのを好きになったわね」
半ば呆れ半ば関心された。
そのころに比べたら対応がまだマシになったと思う。それだけ楸瑛が泣いたということだが、同じだけ絳攸を泣かしている。いや、多分回数でいったら絳攸が泣かされる方が多い。
「君って実はわたしのこと好きなの?」
口を吐いた言葉に、酷く心外な顔をされた。
「ばーか」
好きだから付き合ってるんだろ、と当たり前のように返されて、楸瑛は完全に泣き止んだ。
※ ※ ※
久々に書いてみました(笑)。月1くらいはこっちで書いてるような気もしますが、以前に比べたらまああのそのねえ…?
しかし「陸では俺がお前を泣かせるんだ」という台詞が思い浮かんだら、書くしかないじゃないっすか、というか書かなきゃいけないという変な衝動にかられました(笑)。
やばいやばい。我慢しろ。ダメだ。
幾ら言い聞かせても、涙は呆気なく楸瑛の眼からボロッと落ちた。
ぎょっとした顔の絳攸は、気まずそうに眼をそらし頭を掻く。溜息にカチンときたが同時にめんどくさいとでも思われてるのかなという想像に傷付いて、楸瑛の意思とは反対にボロボロと涙が落ちていく。とまれと命じたって止まらない。ボロボロ、ボロボロ。嘘みたいな粒となって、落下する。
「泣くなよな」
「…君があんなことを言うのがいけないんだ。全部」
「お前が弄んだ女たちも似たようなことを思ったんだろうな」
チクリと胸に針が突き刺さった。
絳攸を好きになった時に、随分難しい相手を好きになったものだと何度も苦笑しつつ、浮足立った心を押さえられなかった。その時とは違う。
楸瑛は何度も何度も絳攸に泣かされてきた。気持の温度差が二人にはある。楸瑛の方が絳攸のことを二倍も三倍も、十倍も十一倍も、きっともっともっと好きで、虚しくなる。
きっかけはなんだか忘れてしまったが、些細な会話の流れから絳攸が放った言葉が楸瑛を傷つけた。
――お前はもっと付き合ってた女たちに真剣に向き合うべきだ。俺のことを好きだとかなんとか言う前に。彼女たちと真剣に向き合って、誰かと付き合うべきだったんだ。
――何で。何でそんなことを言うんだい。私の気持ちを知ってるくせに。彼女たちのことはすまないと思ってるけど、そう思えるのも君に出会ったからなのに。
そして目頭が熱くなった。数回告白してその度に振られた末にようやく首を縦に振ってくれたのに、何で何度もみじめな思いをしなくてはならないのかと、楸瑛は泣きながら思った。
「何で何度も君に泣かされなきゃいけないんだ」
「毎回お前が勝手に泣いてるんだろ。人聞きが悪いこと言うな」
「事実君が泣かせてるんだよ! 付き合ってるのにこれじゃあまるで弄ばれてる気分だよ」
「遊びで一緒に寝るか! それに陸では俺がお前を泣かせて何が悪い!」
楸瑛の涙が止まった。
ベッドの上は海に似ている。夜の海だ。
シーツの皺の上で、白い身体が波打つ。髪が揺れて、脚が躍り、宙を彷徨っていた腕がしがみつくように背中に回される。快感に溺れてどこか深いところに沈んでいく。
絳攸を抱くとき楸瑛はいつもそんな感覚を抱いていた。
多分絳攸も、だ。同じように思っているのだ。
陸――ベッド以外の場所では絳攸が楸瑛を泣かす。なら海――ベッドの上では楸瑛が絳攸を泣かせていいのだ。それはまぎれもなく抱いていいという許可。極めつけが「遊びで一緒に寝るか」の言葉だ。
ああ、たったそれだけの言葉でスッと身体が軽くなった。楸瑛の方が好きだとしても、ずるいと思っても、それでもいい。絳攸に好きだから触れてもいいと言われてるのだから。
それに、楸瑛はある記憶を思い出していた。
初めて絳攸に泣かされた時、情けないことに妹が隣にいた。兄の威厳が地に落ちた瞬間だった――というのはともかく、泣き出した楸瑛に、絳攸は「あー」とか「そのー」とか「ええと」とか何かもごもご言って、肩をぽんと叩いて回れ右して逃げるように帰っていた。かと思ったら、急いで戻ってきて、楸瑛の腕をとって何かを握らせた。
何アレ、と吐き捨てた妹ではないが楸瑛も余りの勢いに泣くのも忘れぽかんとした。掌にはエッチな業者の文句がプリントされた、どぎついピンクと紫のポケットティッシュがあった。泣き止んでしまったから使いようがない。年頃の兄妹にこのティッシュはちょっと気まずいかな、と思ったところで楸瑛の妹が口を開いた。
「あれは好きな相手に泣かれても何もできないタイプとみたわ。兄様もよりにもよって難儀なのを好きになったわね」
半ば呆れ半ば関心された。
そのころに比べたら対応がまだマシになったと思う。それだけ楸瑛が泣いたということだが、同じだけ絳攸を泣かしている。いや、多分回数でいったら絳攸が泣かされる方が多い。
「君って実はわたしのこと好きなの?」
口を吐いた言葉に、酷く心外な顔をされた。
「ばーか」
好きだから付き合ってるんだろ、と当たり前のように返されて、楸瑛は完全に泣き止んだ。
※ ※ ※
久々に書いてみました(笑)。月1くらいはこっちで書いてるような気もしますが、以前に比べたらまああのそのねえ…?
しかし「陸では俺がお前を泣かせるんだ」という台詞が思い浮かんだら、書くしかないじゃないっすか、というか書かなきゃいけないという変な衝動にかられました(笑)。
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