※個人の趣味によるブログです。基本的に本を読んでます。
No.709
2014/04/20 (Sun) 00:29:48
左の頬に違和感を感じてキーボードをタッチしていた左手を無意識に遣ると、ひりひりとした感覚に大した痛みでもないのに楸瑛は顔を歪めて再度手を戻した。端正な顔立ちに似合わない片頬の赤さは、男らしく整った容貌を持つ者につきものの勲章みたいなものだと考えているし、気さくな人柄が周囲に厭らしさを感じさせないことまで知り尽くしている。
被害は少し痛い頬と、眼鏡。弾かれた眼鏡は弦の部分が歪んで使い物にならなくて、パソコンのデスクの横に畳んでおいてある。
なんだか妙な苛立ちがあった。
――別れたくなんかない。あなたが好きなの…!! あなたじゃなくちゃダメなの…! 負担になんてならないから…。お願い私の側にいて…ッ。
常に一部の隙もない化粧で元から派手な顔立ちをさらに華やかに仕上げ、魅力的なつり上がったと大きな瞳と赤い唇で完璧な微笑を向ける女が、ボロボロになりながら叫んだ言葉を思い出す。その瞬間、楸瑛は冷めたのを自覚した。彼女のせいではないし、泣いて必死に縋る姿をかっこいいとすら思った。自分には出来ないことだから。
――おや、初めからお互い本気にならない約束じゃなかったかい? とにかく私の気持ちは変わらわないし、そんな私と一緒にいることは君のプラスにはならない。頭のいい君のことだから解ってるだろ、別れるしかないって。
彼女の絶望した顔。俯いた時に唇を噛んで、再び向かい合った時には燃えるような怒りを瞳に宿していて、傷付きながらも決断をしたのが解った。
楸瑛は態と卑怯な言い回しをしたし、多分それを彼女は理解して、やり直す可能性など残っていないこと、そして気遣うフリして自分勝手な意見を押し付けて酷い男を演じていることに傷付いて怒ったのだ。
左の顔の皮膚が引き攣る。
男に顔を殴られるのと、女に頬を張り倒されるのは痛みが違う。特に彼女のは効いた。軽薄で自分勝手な男を演じた楸瑛に対して、楸瑛が求めるような感情的な女を演じて、平手を放ったのは彼女なりの復讐だし、攻めるつもりなど毛頭ない。彼女が独りで部屋で泣くのは想像ではなくてきっと現実に起こっていることで、罪悪感で満たされた。
どうして、と思う。
初めから遊びだと互いに認識しての関係だったが、本当に魅力的な女性だった。
綺麗な人だし、頭の回転が早くて、会話も面白い。見た目だけじゃなくて中身がちゃんとある女性で、茶目っ気があって、冷静だけど情熱的で、心が広くて大きくて――…。今まで付き合った人の誰よりも素敵な人で、もしかしたら、という予感があった。もしかしたら、彼女なら、本当に好きになれるかもしれない。
でも、ダメだった。これは彼女が悪いのではなくて、楸瑛の問題で、そのことに今落ち込んで、苛立っている。彼女が楸瑛に相応しくないのではなくて、彼女に楸瑛が相応しくないのだ。楸瑛の内面が。
嫌いだ。
――誰かを本気で好きに慣れない自分が嫌いなのだ。
思わず出た溜息とリズミカルなキーボードのタッチ音を響かせながら鬱々とした思考回路に陥っていたことを自覚して、苦笑した。
「そんなことを考えながらする作業じゃないよ、な」
めったにない独り言の最後の「な」の部分でEnterを派手に響かせる。一瞬の空白の後にギュルギュルとパソコンの回転が上がった不愉快な音が続いた。不気味なサウンドをBGMに冷めた珈琲を啜って冴えない気分を味わいながら、その時を待つ。不意に画面に黒い線が走って白くなる。
――来た。
「初めまして、だね」
マグカップを片手ににっこりと微笑んだ先には、人の顔が浮かんでいた。珍しい銀の短髪で眼を閉じている。
プログラミングで理想の相手を作ってみようなんていう気まぐれを起こした自分が可笑しい。そこまで追い詰められていたのか、まさか――などと心の中で突っ込んでいたら。
「え、あ、あれ?」
直ぐに異変に気付き、デスク横に畳んで置いた眼鏡をかけたが、曲がった弦のせいでずり落ちて斜めにかかっても、映像は変わらない。ゆっくりと瞼が押しあがり覗くの蒼い色で――。
「――初めまして、マスター」
音域にすればアルトよりもうんと低い声。
「……ええと、君の名前は?」
「絳攸。李絳攸」
決定的だ。それは男の名前で、弦が歪んだ眼鏡を通して何度確かめても、向かい合っているのは整った顔をしているが男なのは間違いようがない。
「えっと…」
――設定間違えたか?
どんな追及の会議の場でも切り抜けてきた話術を有する口が、久々にどもった。
「マスター?」
「…楸瑛でいいよ。よろしくね。ところで絳攸、気分はどう?」
途端に盛大に顔をしかめて「最悪だ」と言い放ったプログラムに、楸瑛は斜めにかかった眼鏡をずり落ちさせながら、「それはすまないね」と酷くぎこちなく笑いかけてみせた。
※ ※ ※
冒頭は以上のようにできました。
展開もなんとなく決めてるのですが、ここまで書いて満足してしまったのですがどうしようといいますか、出来た部分ってほとんど楸瑛の女性問題というかなんというか鬱々とした感じでしたね(苦笑)。どうしてこんな暗い人間にしてしまった、と自問自答すれども解りません。書いてるときって結構無心というか、見えたまんまを書いてる感じなので、そういう楸瑛が見えたってことなんでしょうが。
気が向いたら続きを書こうかなあ。同じくらいの長さで2回分くらいかなと思います。書けるかなあ…。
というのはいいとして。
今日、駅の近くでよそ見して走っている小学生の少年にぶつかられて尻もちをつきました。
小学生君は「ごめんなさい。大丈夫ですか!」と素直な少年で、お姉さんとしては別に怪我もなく大丈夫でその対応に感心しながら「大丈夫だよ。前を見て歩いていきなさいね」のようなことを言ってみました。
しかし衝撃でしたね。自分の胸の高さくらいしかない小学生に激突されて倒れるなんて。意外にやわだったのか、というのに驚きました。
被害は少し痛い頬と、眼鏡。弾かれた眼鏡は弦の部分が歪んで使い物にならなくて、パソコンのデスクの横に畳んでおいてある。
なんだか妙な苛立ちがあった。
――別れたくなんかない。あなたが好きなの…!! あなたじゃなくちゃダメなの…! 負担になんてならないから…。お願い私の側にいて…ッ。
常に一部の隙もない化粧で元から派手な顔立ちをさらに華やかに仕上げ、魅力的なつり上がったと大きな瞳と赤い唇で完璧な微笑を向ける女が、ボロボロになりながら叫んだ言葉を思い出す。その瞬間、楸瑛は冷めたのを自覚した。彼女のせいではないし、泣いて必死に縋る姿をかっこいいとすら思った。自分には出来ないことだから。
――おや、初めからお互い本気にならない約束じゃなかったかい? とにかく私の気持ちは変わらわないし、そんな私と一緒にいることは君のプラスにはならない。頭のいい君のことだから解ってるだろ、別れるしかないって。
彼女の絶望した顔。俯いた時に唇を噛んで、再び向かい合った時には燃えるような怒りを瞳に宿していて、傷付きながらも決断をしたのが解った。
楸瑛は態と卑怯な言い回しをしたし、多分それを彼女は理解して、やり直す可能性など残っていないこと、そして気遣うフリして自分勝手な意見を押し付けて酷い男を演じていることに傷付いて怒ったのだ。
左の顔の皮膚が引き攣る。
男に顔を殴られるのと、女に頬を張り倒されるのは痛みが違う。特に彼女のは効いた。軽薄で自分勝手な男を演じた楸瑛に対して、楸瑛が求めるような感情的な女を演じて、平手を放ったのは彼女なりの復讐だし、攻めるつもりなど毛頭ない。彼女が独りで部屋で泣くのは想像ではなくてきっと現実に起こっていることで、罪悪感で満たされた。
どうして、と思う。
初めから遊びだと互いに認識しての関係だったが、本当に魅力的な女性だった。
綺麗な人だし、頭の回転が早くて、会話も面白い。見た目だけじゃなくて中身がちゃんとある女性で、茶目っ気があって、冷静だけど情熱的で、心が広くて大きくて――…。今まで付き合った人の誰よりも素敵な人で、もしかしたら、という予感があった。もしかしたら、彼女なら、本当に好きになれるかもしれない。
でも、ダメだった。これは彼女が悪いのではなくて、楸瑛の問題で、そのことに今落ち込んで、苛立っている。彼女が楸瑛に相応しくないのではなくて、彼女に楸瑛が相応しくないのだ。楸瑛の内面が。
嫌いだ。
――誰かを本気で好きに慣れない自分が嫌いなのだ。
思わず出た溜息とリズミカルなキーボードのタッチ音を響かせながら鬱々とした思考回路に陥っていたことを自覚して、苦笑した。
「そんなことを考えながらする作業じゃないよ、な」
めったにない独り言の最後の「な」の部分でEnterを派手に響かせる。一瞬の空白の後にギュルギュルとパソコンの回転が上がった不愉快な音が続いた。不気味なサウンドをBGMに冷めた珈琲を啜って冴えない気分を味わいながら、その時を待つ。不意に画面に黒い線が走って白くなる。
――来た。
「初めまして、だね」
マグカップを片手ににっこりと微笑んだ先には、人の顔が浮かんでいた。珍しい銀の短髪で眼を閉じている。
プログラミングで理想の相手を作ってみようなんていう気まぐれを起こした自分が可笑しい。そこまで追い詰められていたのか、まさか――などと心の中で突っ込んでいたら。
「え、あ、あれ?」
直ぐに異変に気付き、デスク横に畳んで置いた眼鏡をかけたが、曲がった弦のせいでずり落ちて斜めにかかっても、映像は変わらない。ゆっくりと瞼が押しあがり覗くの蒼い色で――。
「――初めまして、マスター」
音域にすればアルトよりもうんと低い声。
「……ええと、君の名前は?」
「絳攸。李絳攸」
決定的だ。それは男の名前で、弦が歪んだ眼鏡を通して何度確かめても、向かい合っているのは整った顔をしているが男なのは間違いようがない。
「えっと…」
――設定間違えたか?
どんな追及の会議の場でも切り抜けてきた話術を有する口が、久々にどもった。
「マスター?」
「…楸瑛でいいよ。よろしくね。ところで絳攸、気分はどう?」
途端に盛大に顔をしかめて「最悪だ」と言い放ったプログラムに、楸瑛は斜めにかかった眼鏡をずり落ちさせながら、「それはすまないね」と酷くぎこちなく笑いかけてみせた。
※ ※ ※
冒頭は以上のようにできました。
展開もなんとなく決めてるのですが、ここまで書いて満足してしまったのですがどうしようといいますか、出来た部分ってほとんど楸瑛の女性問題というかなんというか鬱々とした感じでしたね(苦笑)。どうしてこんな暗い人間にしてしまった、と自問自答すれども解りません。書いてるときって結構無心というか、見えたまんまを書いてる感じなので、そういう楸瑛が見えたってことなんでしょうが。
気が向いたら続きを書こうかなあ。同じくらいの長さで2回分くらいかなと思います。書けるかなあ…。
というのはいいとして。
今日、駅の近くでよそ見して走っている小学生の少年にぶつかられて尻もちをつきました。
小学生君は「ごめんなさい。大丈夫ですか!」と素直な少年で、お姉さんとしては別に怪我もなく大丈夫でその対応に感心しながら「大丈夫だよ。前を見て歩いていきなさいね」のようなことを言ってみました。
しかし衝撃でしたね。自分の胸の高さくらいしかない小学生に激突されて倒れるなんて。意外にやわだったのか、というのに驚きました。
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