※個人の趣味によるブログです。基本的に本を読んでます。
No.463
2013/05/10 (Fri) 23:22:20
皆川さんの「開かせていただき光栄です」を昨日読み終わりました。
皆川さんはよくドイツを舞台にお話を書かれていて、波打つような話の筋には当時の人々の生活を垣間見ることができ、学校の勉強では教わらないリアルな世界を物語の上で感じることが出来ます。何本もの糸を緩く編み上げて太い縄が出来るのですが、徐々にその縄を締め上げていき、細く強固な一本が完成するようなイメージで、とても勉強されているのが伝わりますし、それを紡いでいく文章力が卓越していて、面白いです。
ですが、結構導入部で一度躓きそうになります。
だって、ナマエガオボエラレナイヨ…。
ほら、みなさん、ドイツ人の名前って親しみがありますか? ないでしょうないでしょう!? せいぜいマルクス、ヒトラー、ニーチェ、ビスマルク、アインシュタインだとかでしょう。ファーストネームはカール、アドルフ、ニーチェは知らない、ビスマルクも知らない、アルベルトです。まあ覚えられるかこれくらいなら。例えに失敗。痛恨。
とにかく! ドイツ人が何十人も出てきて、覚えられない間に波打つ話の筋に上手く乗り切れなくて、やや読みづらいと感じることもあります。マルガレーテ、クラウス、ヴァレンシュタイン、シムション、エルヴィン、イシュア、ローゼンミュラー、ハインリヒ、シュルツ、ヒトラーがいればヒムラーも同じ本に出てきてしかもヒムラーはナンバー2……。
辛さが多少は解っていただけました?
ですが、今回はイギリスが舞台!
ということで少しは名前も親しみやすかったです。しかしながら「あの皆川さん」独特の悪趣味にもなりかねない清廉としながらにつややかで妖しい雰囲気が弱かったです。そこは素直に残念。
題名「開かせていただき光栄です」とは語呂がすこし悪いですが、なんか気になる感じです。初め字面を見た時には、なにか舞台でもやる話なのか、と思いましたが、なんとこの「開く」がかかっているのは「屍体」! 私的解剖室を開いているダニエル医師とその弟子が、突然現れた死体の謎を解明する話です。
皆川さんにしては直球のミステリ! わお。
18世紀のイギリスではまだ不審死や他殺体に対する解剖は、倫理的にほとんど行われておらず、ダニエル先生とその弟子は常に屍体に餓えている。墓荒しから屍体を金で買い取り、ダニエルの私的解剖室でこっそり人目を盗んでメスを走らせ、スケッチをし、血管に蝋を流し込み、自作の保存液に標本をつくる…。違法行為を行う程、彼らは屍体に餓えていた。
ある日、見回りの治安組織が新鮮な遺体を切り刻もうとしている最中に踏み込もうとしてきて、彼らはあわてて究極の証拠である屍体を暖炉の中へ隠すのだが…。一体が二体、さらにもう一体。増える屍体の謎と、彼らはどこの誰で犯人ははたして、そして殺された理由はいかに…?
電車の中で聞くともなしに学生はよく笑っています。いかにどうでもいいことを面白く言おうと頭を回転させながら。
この本に出てくる弟子たちも、みんなそう! アルにしても、ベンにしても、エドにしても、ナイジェルにしても、あとおしゃべり君(名前忘れたごめんなさい)にしても。悪趣味な解剖ソングを歌いながら、メスを握るほどに。強烈!
それに床屋が兼業していることもあり、社会的に地位が低い外科医のダニエルと、上流階級に劣らぬ名声をもたらす内科医の兄ロバートの対比、ロンドンの恐ろしさなど、皆川さんの本だから全く持って幻想を抱かせる描写はない。でも学生たちが力強く楽しいことを探しながらも一生懸命解剖学を学美ながら馬鹿なことを言うのは楽しかったです。たとえ虚構の仲だろうと、いつの時代の学生もこうなんだという強烈なリアル感がありました。
解剖に熱意を燃やすダニエル先生のキャラはそんな個性的な生徒よりも強烈で、判事のジョンとその姪の男装の麗人にして治安員の一人アンもなかなかインパクトがありました。不利な発言をしないよう弟子たちが気を利かせているのに、解剖のことになると目の色を変え「もっと屍体を!」と話し出すと止まらない解剖に心血を注ぐダニエル先生。しかしそんな変態ともいえるダニエルの解剖の知識はイギリス一とも言え(ただし外科医の地位が低い陰ひなたの存在)、生徒たちは尊敬しているのが伝わり微笑ましかったです。またダニエルの弟子馬鹿度合いも。
どなたかが皆川さんは「正統にして異端」と評していたのを目にしてとても感心しました。
「死の泉」では叙述ミステリ界を震撼させ(叙述ミステリにたいし叙述だよということはネタバレにも等しい行為ですが、今回は当てはまりませんというかそもそも叙述と扱っていいのか…)、その年のミステリ界を席巻しましたっけ?
トリッキーさは感じさせませんが、実はかなりのトリックスター。
今回もそれが活かされるのか、と思いきや、本当に直球でした。そして家族の話でもあります。
「これぞ皆川博子!」という作品ではないにしろ、皆川さん色はやはりそれなりにありますし、なによりも複線の貼り方や展開がレベルが高くて、それに作者の純文学を書いて欲しいと思わせるような美しいけれど毒々しく、そして力強い文章力が合わさって質の高いミステリが出来上がってます。想像できる部分は想像でき、ぜったにさせない部分は驚きを提供してくれる。
まああれです。こちらと「読ませていただき光栄です」と本にぺこりとお辞儀をしたくなります。そして「愛してる!」と本に向かって叫びたくなります。
で、これパロなら一番弟子、二番弟子のエド(メスさばきがイイ)とナイジェル(目を見張るような精密画を描く)にするか、ダニエル先生とアンにするか、という話になります……。スミマセン。
皆川さんはよくドイツを舞台にお話を書かれていて、波打つような話の筋には当時の人々の生活を垣間見ることができ、学校の勉強では教わらないリアルな世界を物語の上で感じることが出来ます。何本もの糸を緩く編み上げて太い縄が出来るのですが、徐々にその縄を締め上げていき、細く強固な一本が完成するようなイメージで、とても勉強されているのが伝わりますし、それを紡いでいく文章力が卓越していて、面白いです。
ですが、結構導入部で一度躓きそうになります。
だって、ナマエガオボエラレナイヨ…。
ほら、みなさん、ドイツ人の名前って親しみがありますか? ないでしょうないでしょう!? せいぜいマルクス、ヒトラー、ニーチェ、ビスマルク、アインシュタインだとかでしょう。ファーストネームはカール、アドルフ、ニーチェは知らない、ビスマルクも知らない、アルベルトです。まあ覚えられるかこれくらいなら。例えに失敗。痛恨。
とにかく! ドイツ人が何十人も出てきて、覚えられない間に波打つ話の筋に上手く乗り切れなくて、やや読みづらいと感じることもあります。マルガレーテ、クラウス、ヴァレンシュタイン、シムション、エルヴィン、イシュア、ローゼンミュラー、ハインリヒ、シュルツ、ヒトラーがいればヒムラーも同じ本に出てきてしかもヒムラーはナンバー2……。
辛さが多少は解っていただけました?
ですが、今回はイギリスが舞台!
ということで少しは名前も親しみやすかったです。しかしながら「あの皆川さん」独特の悪趣味にもなりかねない清廉としながらにつややかで妖しい雰囲気が弱かったです。そこは素直に残念。
題名「開かせていただき光栄です」とは語呂がすこし悪いですが、なんか気になる感じです。初め字面を見た時には、なにか舞台でもやる話なのか、と思いましたが、なんとこの「開く」がかかっているのは「屍体」! 私的解剖室を開いているダニエル医師とその弟子が、突然現れた死体の謎を解明する話です。
皆川さんにしては直球のミステリ! わお。
18世紀のイギリスではまだ不審死や他殺体に対する解剖は、倫理的にほとんど行われておらず、ダニエル先生とその弟子は常に屍体に餓えている。墓荒しから屍体を金で買い取り、ダニエルの私的解剖室でこっそり人目を盗んでメスを走らせ、スケッチをし、血管に蝋を流し込み、自作の保存液に標本をつくる…。違法行為を行う程、彼らは屍体に餓えていた。
ある日、見回りの治安組織が新鮮な遺体を切り刻もうとしている最中に踏み込もうとしてきて、彼らはあわてて究極の証拠である屍体を暖炉の中へ隠すのだが…。一体が二体、さらにもう一体。増える屍体の謎と、彼らはどこの誰で犯人ははたして、そして殺された理由はいかに…?
電車の中で聞くともなしに学生はよく笑っています。いかにどうでもいいことを面白く言おうと頭を回転させながら。
この本に出てくる弟子たちも、みんなそう! アルにしても、ベンにしても、エドにしても、ナイジェルにしても、あとおしゃべり君(名前忘れたごめんなさい)にしても。悪趣味な解剖ソングを歌いながら、メスを握るほどに。強烈!
それに床屋が兼業していることもあり、社会的に地位が低い外科医のダニエルと、上流階級に劣らぬ名声をもたらす内科医の兄ロバートの対比、ロンドンの恐ろしさなど、皆川さんの本だから全く持って幻想を抱かせる描写はない。でも学生たちが力強く楽しいことを探しながらも一生懸命解剖学を学美ながら馬鹿なことを言うのは楽しかったです。たとえ虚構の仲だろうと、いつの時代の学生もこうなんだという強烈なリアル感がありました。
解剖に熱意を燃やすダニエル先生のキャラはそんな個性的な生徒よりも強烈で、判事のジョンとその姪の男装の麗人にして治安員の一人アンもなかなかインパクトがありました。不利な発言をしないよう弟子たちが気を利かせているのに、解剖のことになると目の色を変え「もっと屍体を!」と話し出すと止まらない解剖に心血を注ぐダニエル先生。しかしそんな変態ともいえるダニエルの解剖の知識はイギリス一とも言え(ただし外科医の地位が低い陰ひなたの存在)、生徒たちは尊敬しているのが伝わり微笑ましかったです。またダニエルの弟子馬鹿度合いも。
どなたかが皆川さんは「正統にして異端」と評していたのを目にしてとても感心しました。
「死の泉」では叙述ミステリ界を震撼させ(叙述ミステリにたいし叙述だよということはネタバレにも等しい行為ですが、今回は当てはまりませんというかそもそも叙述と扱っていいのか…)、その年のミステリ界を席巻しましたっけ?
トリッキーさは感じさせませんが、実はかなりのトリックスター。
今回もそれが活かされるのか、と思いきや、本当に直球でした。そして家族の話でもあります。
「これぞ皆川博子!」という作品ではないにしろ、皆川さん色はやはりそれなりにありますし、なによりも複線の貼り方や展開がレベルが高くて、それに作者の純文学を書いて欲しいと思わせるような美しいけれど毒々しく、そして力強い文章力が合わさって質の高いミステリが出来上がってます。想像できる部分は想像でき、ぜったにさせない部分は驚きを提供してくれる。
まああれです。こちらと「読ませていただき光栄です」と本にぺこりとお辞儀をしたくなります。そして「愛してる!」と本に向かって叫びたくなります。
で、これパロなら一番弟子、二番弟子のエド(メスさばきがイイ)とナイジェル(目を見張るような精密画を描く)にするか、ダニエル先生とアンにするか、という話になります……。スミマセン。
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